有事の際、住民の避難施設となるシェルターの整備が先島諸島で進みそうだ。政府はシェルターに関する基本方針と技術ガイドラインを公表し、宮古、八重山の5市町村を整備の対象地域とした。
石垣市の中山義隆市長は記者会見し、市役所隣接地に整備する防災公園の地下に、シェルター機能を持つ駐車場を設置する方針を示した。政府の方針にのっとり「財源確保など、必要な手続きを進める」と表明した。
沖縄を取り巻く国際環境が緊迫化する中、政府や自治体が住民保護に向けた取り組みを具体的な施策として進めるのは当然のことだ。対象地域となった石垣市、竹富町、与那国町、宮古島市、多良間村は速やかにシェルター整備を進めてほしい。
先島諸島は台湾に近く、中国が台湾に侵攻する台湾有事が勃発した場合、何らかの影響を受けるのは不可避と見られている。差し当たって考えられるのは台湾からの避難民が殺到する可能性だが、最悪の場合、八重山、宮古が中国から直接的な武力攻撃を受ける可能性もある。
政府は、こうした事態に至る前段階で住民を島外避難させる計画だ。だが避難誘導に従事する行政職員や、避難が遅れた住民などが、一定期間身を隠せる堅牢(けんろう)な避難施設としてシェルターが必要になる。
シェルターは有事には住民の避難施設となるが、平時には公共施設として別用途に活用できる。有事がなくても整備が無駄になることはない。
政府は5市町村がシェルターを整備する場合、財政支援する方針なので、5市町村は有利な条件で公共施設を造ることができる。
石垣市が整備を目指す防災公園の地下駐車場は、通常はイベントスペースとして活用される。防災公園と一体で相乗効果が出せるよう検討するようだ。老朽化した消防本部庁舎の建て替えや、新設される消防本部西出張所の建設時にも、地下にシェルターの整備を検討する。
竹富町は西表島に建設予定の大原庁舎、与那国町も、今後建設する新庁舎にそれぞれ地下駐車場を設置し、シェルターとして位置付ける方向だ。
シェルターは災害の際も避難施設として使える。台風常襲地帯である八重山には、その意味でも必要だろう。
台湾沖地震では八重山にも小規模ながら津波が到来し、250年前に起きた明和大津波の恐怖が再び住民の脳裏をよぎった。石垣市役所は高台にあるため、津波の際もシェルターを一時的な避難施設にできるかも知れない。
「特定利用(特定重要拠点)空港・港湾」もそうだが、平時には地域振興、有事には安全保障に活用できる施設は、国境の島である八重山にとって、とりわけ有用である。3市町は、積極的に制度の活用を進めなくてはならない。
気になるのは政府のシェルター整備方針公表を受け、玉城デニー知事が出したコメントだ。「国に対して説明を求めるとともに、関係市町村等と連携して対応していきたい」と一見、冷淡とも取れる反応となっている。
県がシェルター整備を戦争につながる動きととらえ、警戒しているのであれば、見当違いの考えと言わねばならない。