【視点】反対のための反対は不毛だ

 防衛省がうるま市で計画していた自衛隊の新たな訓練施設に地域住民の反対運動が起きていた問題で、木原稔防衛相は、施設建設を断念すると発表した。
 玉城デニー知事は今月14日、名護市で開かれた集会で「自衛隊の訓練施設を断念させたことは、紛れもなく皆さんの力だ」と住民をたたえ「沖縄県内で米軍基地の整理縮小、撤去の上にのしかかるような、新たな自衛隊基地は造らせない」と明言した。
 自衛隊施設は米軍基地とは違う。日本が「自分の国を自分で守る」ため安全保障上の必要に迫られて整備するものだ。その際、住民生活と施設をどう調和させるかは、個々の計画の中で判断されることになる。十把一絡げに「造らせない」と主張する知事発言は不適切である。
 うるま市の自衛隊施設が挫折した理由は何か。昨年3月に配備が完了したばかりの石垣駐屯地と比較すると分かりやすい。
 石垣島の自衛隊配備には、地元に理解を示す声が多くあり、有力な政治家や八重山防衛協会のような組織による支援もあった。
 米軍基地の負担が強調されがちな沖縄本島と異なり、石垣市は中国が侵奪をもくろむ尖閣諸島を抱える。自衛隊配備の必要性が住民に理解されやすかったことも大きい。
 配備計画が公表されてからは、防衛省と石垣市による説明会や公開討論会もあった。メディアの積極的な報道もあいまって、配備の必要性に関し、住民には事前に十分な情報が行き渡っていた。
 うるま市のケースでは、もともと防衛力の増強に批判的な革新系と呼ばれる人だけでなく、政府与党の自民党までが反対に回った。石垣市のケースとは違い、地元で計画の根回しをする人材が皆無だったように見える。
 住民からは「住宅地に近過ぎる」と猛反発の声が上がり、県民の反基地感情に火がつく形で、メディアも巻き込んだ大規模な反対運動に発展した。住民の決起集会も開かれ、収拾がつかなくなった。
 地元の自民党までもが計画阻止に動いた背景には、6月の県議選があったとも言われている。いずれにせよ、結果として住民の理解を得られなかったのは政府の失態であり、見通しの甘さは批判されて然るべきだ。
 ただ、新たな訓練場整備は、陸自第15旅団を師団に格上げする計画に伴うものだ。うるま市での計画挫折によって、訓練場整備の必要性そのものが消えたわけではない。
 木原防衛相は「住民生活と調和しながら訓練所要を満たすことは不可能とは考えていない」と述べ、引き続き沖縄本島で、住民の理解が得られる候補地を模索する考えを示した。
 沖縄の防衛に責任を持つ政府の姿勢としては当然である。防衛省はうるま市での反省を生かし、住民生活への影響を極力回避できる場所を選定してもらいたい。
 ただ、玉城知事は12日の記者会見で「今後、県内のどのような場所であっても、計画ありきで土地を取得し、内容の説明が二転三転する状況では、今後も県民の賛意を得るのは難しい」と述べた。
 その上で、名護市の集会での発言である。知事は防衛省の「計画ありき」を批判するが、一連の発言を聞く限り、自分こそ「反対ありき」ではないか。
 知事の姿勢は、今後予想されるあらゆる自衛隊施設の計画に対し、不毛な「反対のための反対」運動を助長しかねない。憂慮を感じる。

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