波照間公民館が5月12日の総会で、波照間空港の滑走路延長について、多数決で反対を決めた。波照間空港は、有事に備えて政府がインフラの機能強化を図る「特定利用空港・港湾」の指定候補に挙がっていたが、地元住民として拒否する意向を明確にしたものだ。影響は小さくないだろう。
波照間空港の滑走路延長は、もともと同公民館が4年間要請し続けていた懸案事項である。だが「特定利用空港」に指定されれば自衛隊の利用が増えるため、要請書によると「島民の安心・安全に重大な障害になる」との危機感から、一転、滑走路延長に反対するに至った。
果たして島の未来を冷静に検討した上での決断だろうか。「特定利用」に指定された場合のデメリットを過大に評価していないか。
多数決という民主的な手続きに基づく決定は尊重するが、感情的な議論に振り回された印象が強い。できれば再考を求めたい。
波照間空港の滑走路は現在800㍍だが、公民館や町は1200㍍への延長を求めてきた。現在の滑走路では15人乗りの小型機しか使用できないが、滑走路が延長されれば、より大きな機材が就航できるようになり、利便性が増すからだ。
ただ、空港管理者の県は滑走路延長に関し、民間需要が見込めないとして消極的な姿勢に終始してきた。2007年に定期便が運休し、空港がほとんど使用されない状況が長年続いてきたためだ。
今年1月、第一航空の波照間―石垣路線が16年ぶりに復活したが、運航に伴う赤字分を沖縄県と竹富町が負担することでフライトが継続している。現在の波照間空港で、滑走路延長を必要とするような民間需要があるとは確かに考えにくい。
政府が波照間空港を「特定利用空港」の指定候補に挙げたのは、日本最南端の有人島という波照間島の特性に着目したからだと思われる。
指定が政府主導による滑走路延長の事業化に結び付くかは、現時点では定かではない。だが県の消極姿勢を考えれば、指定を拒否することは事実上、滑走路延長を断念することに等しい。
県は与那国空港の滑走路延長にも否定的な姿勢だが、同空港の「特定利用空港」指定を求める与那国町の糸数健一町長は「需要は作り出すものだ」と主張している。
就航可能な機材が大型化すれば、観光需要の喚起も含め新たな展開が可能になる。防災や有事対応を考えても、空港機能の強化で住民の安全性や利便性が増しこそすれ、その逆の事態が起こることはほぼ考えられない。
地元住民が滑走路延長の要請を止めてしまうのは、地域活性化や防災・減災も含め、さまざまな可能性の芽を自らつぶしてしまう行為だ。
「特定利用空港」指定で「空港が軍事利用され、有事に攻撃対象になる」という論説が誤解であることは、本紙がこれまでも何度か指摘してきた。
「軍事利用」という概念は曖昧で、空港を拠点とした自衛隊の防災活動や人道支援と軍事活動の境目を明確に区切るのは困難だ。有事の際「特定利用」に指定されていなければ攻撃対象にならないという保証は、そもそもない。
指定や自衛隊の利用が「島民の安全・安心の障害になる」という考えは、根拠がないのである。