石垣島トライアスロン2025には、妻や仲間に支えられ、特別な思いを胸に完走した選手がいる。小山豊さん(51)=新栄町=は、ライフセーバーとして活躍していたが、2023年8月にトレーニング中の事故で頸椎(けいつい)を損傷。体にまひが残り寝たきりになった。ただ、強じんな精神でリハビリに取り組み、1年半で走れるまで回復。今大会にはスイムとランのみ参加(オープン参加)し、見事完走を果たした。
多くの選手がゴールし、表彰式も始まった会場で、仲間と共にフィニッシュラインを目指す小山さんの姿は、1年半前に体の自由が奪われた患者には見えなかった。首に6本のボルトを入れる手術も受け、懸命なリハビリを乗り越え、復活を果たした瞬間だった。
腕にまひが残るものの、足取りはしっかりしており、完走を果たすと妻の静江さん(45)や仲間たちの祝福を受けた。
以前には同大会で地元1位も獲得したスポーツマン。ライフセーバーとして仲間と共に八重山の海を守ってきた。
事故を振り返り「浅かったので、海底で頭を強打し首を折った。仲間に助けてもらった」と感謝した。
一生寝たきりになる患者もいる事故を受けても「やれることは、やる。アスリートとしてスポーツができるのが目標」と決意。沖縄本島の病院からリハビリ専門機関に移ったのは事故から一カ月後の23年9月。半年後の24年春ごろには歩けるまでに回復し見事退院した。
事故から2年が経過していないため、障害認定は下りなかった。腕にはまひが残るためバイクは最終的に断念した。
「(完走できるか)半信半疑でも参加した」(小山さん)。練習時もランコースの10㌔を走れず、スイムの1500㍍も泳げなかったが、「ゴールしたかったし、皆さんの応援に支えられた」とレースを振り返った。
静江さんは「勝手にエントリーしていた。リレーにしてほしいと求めても個人で出場した」と驚く。「普通に見えても中身はボロボロ。夜は寝れないくらい脚が勝手に動くこともある」と夫を気遣う。
「元気になって良かったで終わりではない。本人はサバニも漕ぎたいし、SUPにも乗りたいし、サーフィンもしたいと思っている」と静江さん。
医師から命も危なかったと言われた事故からの復活は奇跡ではない。多くの仲間や献身的な妻に支えられた「超人」の挑戦は始まったばかりだ。
小山さんは同じ障害を持つ人に対し「全てができるとは言わないが、諦めなければ、できることは増える。信じて続けることが大切」と語った。
静江さんは「ここまで回復できた。夫には役目があると思う。コツコツと諦めず、できることを続けることの大切さを人に伝えることができる」と期待した。