尖閣諸島を行政区域に抱え、台湾にも近い石垣市の市長選では、否応なしに日本の安全保障政策も争点になる。候補者には、政府が進める陸上自衛隊石垣駐屯地の拡大・増強、駐屯地内で毎年のように実施されている日米共同訓練への対応、さらには台湾有事、尖閣有事に対する考え方も問われる。
▽防衛力増強「一方的」
「台湾有事を念頭に、想像を超えるスピードで進む反撃能力配備の検討、米軍との共同訓練は受け入れ難い」
前市議の新人、砥板芳行市は、石垣市での防衛力増強が住民不在のまま、政府の思惑だけで一方的に進められていると危惧する。
自らは過去、八重山防衛協会に所属し、石垣市への自衛隊配備を推進してきた。「南西諸島の防衛の空白地帯を埋める観点から、先島諸島への配備の必要性は理解する。自衛官の家族を含め千人ほどの方々とは信頼関係を構築し、共に市民として市を支えてもらいたい」と要望。
ただ駐屯地開設後、面積拡大の動きが進んでいることに対しては「駐屯地の拡張が環境アセス逃れのための二段階の拡張であれは非常に問題だ」と疑問視する。
台湾有事への対応に関しては「『台湾有事は日本有事』という言葉が独り歩きしている。納得できる説明をする責任ある立場の方々の話を聞いたことがない」と指摘。
台湾有事を念頭に進められている先島住民の九州・山口への避難計画についても「林芳正官房長官は『特定の有事を想定していない』と言っている。なのに、なぜ先島諸島なのか。しっかり説明を求める」と追及する。
政策には「憲法を生かした外交」を掲げた。「台湾問題は平和的に解決される道筋を周辺国と共に進めていく必要がある」
尖閣問題への対応も台湾問題と軌を一にする。
「政治的な思惑でアピールをするために尖閣諸島に近づく方々もいる。不測の事態を招く恐れもあるので、そのような活動は慎むべきだ」。日本側による挑発的とも取れる行動を戒める。
一方、尖閣諸島が石垣市の行政区域であることを国内外に発信するため、尖閣資料館を整備することには前向きな姿勢を示した。
▽看板政策の尖閣対応
「台湾有事を防ぐことが一番大事。日本だけでなく周辺国とも連携しながら進めなくてはならない」と語る前職、中山義隆氏。政府見解と異なり「台湾は一つの国だ」と明言する。
「中国が武力で併合することは反対だ」。台湾への軍事的圧力を強める中国に対し、極めて批判的な立場を示す。
台湾有事を念頭に、政府が進める先島諸島住民の避難計画は「必要」との立場だ。
「国民保護計画はグレーゾーンの対応も含め、万一の備えとして進めるべきだ。住民避難は現在、図上訓練だが、できるだけ早い段階で小規模でも実地訓練を行い万一に備えたい。国、県、市が連携しないといけない。できるだけ早い段階でシミュレーションを行う」
尖閣諸島問題に関し、中山市政は住所を表示する標柱の製作、ふるさと納税の返礼品として、尖閣周辺で獲れる「アカマチ」活用、尖閣周辺海域の現地調査などの取り組みを進めてきた。尖閣諸島開拓の日の制定、毎年の式典開催なども中山市政で始まった。尖閣問題への対応は、中山氏の知名度を全国区に押し上げた看板政策とも言える。
中山氏は「尖閣諸島は固有の領土であり、絶対に譲ることはできない。国には海保の増強等で対応してもらいたい」と改めて求める。
さらに「国に尖閣諸島への上陸を要望したい。日本の領土であることを国際的にアピールするため、灯台、気象観測装置などの公的施設を尖閣諸島に設置してもらいたい」と、国にさらなる行動を促す。
駐屯地の拡大については「そのつど内容を確認して判断したい。住民の理解が必要だ。私だけで判断することはない」とする。日米共同訓練は「日本全体の安全保障に資する内容であれば容認する」立場だ。
石垣市への長射程ミサイル配備に関しては、砥板氏、中山氏とも「反対」を明言している。(続く)