〈世界を歩き回り、国際社会の現状を見て、「国境」が心を捉えた〉
日本は海に囲まれた国だから、「国境」というものがあって無いようなもの。僕も国境に興味なんて持っていなかった。
でも、ジャーナリストの田原総一朗さんなどと世界各国を回って国境を通過するたびに見てきたのは、国境の厳しさだった。軍が常駐し、地雷原や戦車があったりしたのが現実。そんな陸続きの国家間同士の現状を目の当たりにして、少しずつ国境を意識するようになった。
極め付けは、1986年頃に作家の椎名誠と一緒に、チリの離れ島「ディエゴ・ラミレス」を訪れた時だった。6人の海軍兵が3年間もその島、というより小さな岩礁で生活しなければならない。3年ごとに半数ずつ交代するんだけど、島を離れる3人は喜びの絶頂のような表情。逆に、新しく島に降りてくる3人は死んだような顔をしていた。
僕は「こんな過酷な環境に、どうして駐在しないといけないのか」と聞いてみた。すると「ショー・ザ・フラッグ(Show The Flag)。この島はチリの領土であると示すための重要な仕事をしているんだ」と言われた。その時、「『国境』というものは、そういうものなのか。日本ではどうなのか」と、初めて自分自身の問いが生まれたんだ。
(敬称略、聞き手・里永雄一朗)
[プロフィール]
山本皓一(やまもと・こういち) 1943年、香川県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒。雑誌の写真記者を経て、フリーランスのフォト・ジャーナリストに転身。独裁国家の北朝鮮、崩壊直前のソ連、日本の国境の島々を踏破するなど、世界各国をルポルタージュしてきた。日本写真家協会とペンクラブの会員。