【視点】米軍事故、安全保障再考を 視点
- 2017/10/13
- 視点
米軍普天間飛行場所属のCH53E大型輸送ヘリが11日、東村の民間地に緊急着陸し、大破、炎上した。最も近い民家から数百㍍の距離だという。許し難い事態である。地域住民や乗員に死傷者が出なかったのは奇跡的だったが、繰り返される米軍機の事故に県民の怒りは増すばかりだ。
翁長雄志知事は「とんでもない話だ」と憤った。安倍晋三首相は「大変遺憾だ。安全第一で考えてもらわなければ困る」と述べ、米側に原因究明と再発防止を申し入れるよう指示した。12日には自民党の岸田文雄政調会長が来県するなど、政府・与党挙げて対応に追われている。
米軍は安全を確認するため、当面、同型機の運用を停止する方針を表明した。米軍には厳重に抗議し、明確な安全対策を要求すべきだ。
沖縄にとって悲劇的なのは、事件・事故の繰り返しが日米両政府への県民の不信感を強め、ひいては両政府が進める県民の負担軽減策にブレーキが掛かってしまう悪循環が存在することだ。
普天間飛行場の辺野古移設は、まさに今回のような事故が市街地の宜野湾市で起こることを防ぐため計画された。しかし現実には、米軍の事件・事故が辺野古移設反対の理由に使われることが多い。政治的思惑が、沖縄の基地負担軽減をむしろ遅らせているのである。
衆院選の候補も相次いで事故現場に駆けつけているが、これこそ与野党を超えた「オール沖縄」で県民の声を訴えるべき事案だ。しかし翁長知事は11日、報道陣の質問に対し、今回の事故が衆院選に影響するとの認識の上で「新辺野古基地を造らせない、オスプレイ配備撤回、普天間閉鎖撤去を求める候補者を勝たせることで、民意を改めて示さないといけない」と述べた。
記者とのやり取りとはいえ、事故の抗議にかこつけた政治的アピールにしか見えず、さらには、さまざまな政治的立場を持つ県民の分断を誘発させる可能性すらある。自ら「オール沖縄」を否定するような言動ではないか。
米軍の事件・事故が起きるたび、日本側の捜査権を制限した日米地位協定の問題が指摘される。日本で起きた事故なのに日本側が独力で究明できない。米軍の「ブラックボックス」化が県民の不公平感を増幅させてきた。
米軍の事件・事故は、過去、どの政権にとっても頭痛の種だった。日本の「対米追従路線」や、安倍政権の外交政策を批判しても始まらない。問題の根源は、自国の防衛を米軍に全面的に委ねるという、戦後一貫した安全保障のあり方にある。
現在の国際情勢下、沖縄で非武装または一的な軍備縮小を進めることは非現実的だ。では沖縄にとって最もリアリティの高い解決策は何か。
日米同盟の堅持は今後とも基本線だが、県民の負担軽減を進めるには、米軍基地や、米軍の活動縮小を求めるほかない。一方で脅威に対応できる体制を維持するには、米軍に代わる存在として、自衛隊の役割強化が不可欠である。
事故が衆院選に影響するというのなら、各党が提唱する、自衛隊を憲法にどう位置づけるかという憲法改正の問題まで、県民には踏み込んで考えてもらいたい。