昨夏の甲子園に出場した横綱を相手に死闘を演じた。結果は準優勝だったが、今大会の主役は間違いなく八重山農林高校だった。やはり力は本物だ。19日から佐賀県で始まる九州大会が楽しみだ。
第69回県高校野球秋季大会は5日、八重農は沖縄尚学と決勝戦を行い、7―8で惜しくもサヨナラ負けした。しかし5点差で迎えた9回表2死から同点に追いつき、延長戦に持ち込んだ粘りは驚異的だった。今大会最高の見せ場を決勝でつくってくれた。
沖縄の高校野球は近年、甲子園優勝経験のある沖尚と興南の2強体制になりつつあり、メディアでは今大会も両校が優勝候補の筆頭に挙げられていた。そこへダークホースとして離島から割り込んできたのである。大会前にはそれほど期待されていなかっただけに、下馬評を覆した選手たちの技術、精神力には脱帽するほかない。よほどの練習量を積み重ねてきたのだろう。
選手たちを支えてきた父母の頑張りも大きい。陸続きの本島とは違い、八重山から応援に行くには高額な交通費や宿泊費がかかる。経済的困難の中、それでも父母は毎試合通い、客席から選手たちを元気づけた。大会が始まった当初はスタンドの応援団もそれほど多くなかったが、勝ち進むことで本島からの友情応援が増え、にぎやかさを増したようだ。
練習環境に恵まれない離島勢にとって、かつて甲子園は「夢のまた夢」と言われたが、八重山商工が2006年に春夏連続で出場を果たし、高校野球の歴史を変えた。離島のハンディが克服可能であることを満天下に示した。あの八重山を熱狂させた日々から、もう13年経っている。
その間には八重山高校が15年の県秋季大会で優勝し、九州大会でも1勝。困難を克服した学校などが推薦される「21世紀枠」での甲子園出場の期待が高まったが、惜しくも選に漏れた。
そして今回は八重農の活躍である。野球の神様が八重山の3高校すべてに順番でチャンスを与えてくれたように見える。八重農は今年、郷土芸能部が東京で国立劇場公演を実現したばかりだ。文武両道の活躍を見せてくれている。
八重山にも少子化の影響は忍び寄っており、八重農も生徒数の減少に苦しんでいる。近年は学科名の変更などで時代の変化に対応すべく努力しているが、野球部の健闘は同校のイメージアップにも大きく貢献したはずだ。これを機に八重農を目指す生徒が増えれば喜ばしい。
県大会では八重山代表としての戦いだったが、九州大会に舞台が移ったあとは、沖縄代表としての期待を背負う。県勢は2015年以来、春の甲子園から遠ざかっており、九州大会では沖尚とともに、甲子園出場を願う県民ぐるみの応援を受けることになる。
九州大会で4強入りすれば選抜出場は濃厚とされる。一部では早くも21世紀枠での推薦を期待する声もあるが、新里和久監督は「自力で勝ちに行きたい」と楽観を戒めた。
八重農ナインは一躍ヒーローになったことでメディアの注目度が高まり、平常心を保つのが難しいかも知れない。しかも九州大会までほとんど間がない。だが、ここで気持ちをコントロールし、集中力を高めて本番に臨めるかが甲子園出場の成否を決める。