安倍晋三首相の辞任表明後、自民党内では次期首相の選出に向け、総裁選をにらんだ動きが慌ただしくなった。誰が次期首相に就任するかは、沖縄の2大テーマである経済振興と米軍基地の負担軽減の行方にも大きく関わってくる。
安倍政権は沖縄振興に関し、任期中、仲井真弘多元知事と約束した毎年度3千億円台の振興予算を確保し、市との自由度が高い一括交付金の制度も維持した。
県や各市町村で長年の課題とされながら、なかなか予算措置されず停滞していた事業の多くが、一括交付金で動き出している。八重山で言えば、沖縄本島などへの児童生徒の派遣費補助や、航空運賃、離島航路の船賃軽減など、住民生活に密接に関わる事業が一括交付金の恩恵を受けている。
市町村が県を通さず国と直接交渉して交付を受けられる沖縄振興特定事業推進費も創設された。市町村にとって振興予算の使い勝手がより良くなった。ただ米軍普天間飛行場の辺野古移設を巡る国と県の対立もあり、一括交付金の額は年々減少傾向にある。
安倍政権では、空港や港湾といったインフラ整備以外でも、おおむね沖縄の実情に合った予算措置が継続されてきたと評価できる。次期政権には、基本路線として現在の沖縄振興策を踏襲しながら、さらにきめ細かい施策の拡充に努めてほしい。
米軍基地問題は普天間飛行場の辺野古移設がすべてではない。にもかかわらず、移設の是非の一点だけで県と政府の対話が全般的に停滞する最悪の状況に陥っている。
米軍基地の整理縮小は日米合意に基づいて段階的に進めるほかない。民主党政権時、鳩山由紀夫元首相は県外移設を掲げながら結局辺野古に回帰し、自らも責任を取る形で退陣せざるを得なかった。当時の教訓を生かさなくてはならない。
次期首相も有力候補の顔ぶれを見る限り、誰が当選しても辺野古移設推進の基本方針が変わる可能性は低い。米国も民主党、共和党にかかわらず辺野古移設は推進の姿勢で、11月の大統領選の結果を見るまでもない。
要するに県政には現実を見据えて腹をくくる覚悟が求められているのであり、辺野古反対を訴える限り、次期政権との関係改善も厳しいと考えざるを得ない。
現時点で総裁選の最有力候補には菅義偉官房長官が浮上していると言われる。現在、安倍政権の米軍基地負担軽減担当であり、沖縄のさまざまなキーパーソンとの人脈も豊富であると評価が高い。首相に就任すれば、安倍政権の沖縄政策は、ほぼそのまま継承されることになるだろう。
県は次期政権と交渉し、2022年度からの新たな沖縄振興計画に、県民生活の向上に向けた実効性ある施策を盛り込んでいかなくてはならない。基地問題で妥協すべきは妥協し、沖縄振興で主張すべきは主張して、真の「県益」を実現させるしたたかさが県政には求められる。