尖閣諸島周辺の接続水域で、中国公船「海警」の航行日数が19日、今年に入り300日に達した。今や台風などの悪天候時を除き、尖閣周辺では常に中国公船が航行している。中国公船は海上保安庁の巡視船と同様、尖閣周辺での「常駐体制」をほぼ確立したと見ていい。
言うまでもなく、尖閣諸島は石垣市の行政区域だ。だが21世紀にもなって、他国が実力行使で石垣市の行政区域を侵奪しようとしている。県民にとっては目をそむけたくなるような現実だが、子や孫の将来を憂い、沖縄の将来を思うなら、目の前の光景を直視する必要がある。
ポイントは、時間は中国の味方だということだ。中国は尖閣海域で「海警」と巡視船が対峙する状況をあと10年も続けるだけでいい。国際社会から「実際に尖閣諸島を管轄しているのは日本か中国か」と疑われる状況にするには十分だ。
既に中国は2012年の日本政府による尖閣国有化以降、時間をかけて、じっくりと現在の状況を築いてきている。「現状維持で何とか乗り切れる」という選択肢は日本側にはなく、時間が経てば経つほど、日本の実効支配は揺り動かされる。
しかも中国は、着々と新たな手を打っている。「海警」が自国の領海から外国船を排除するため、武器使用を認める法律が近く制定される見込みだ。
尖閣周辺で操業する日本漁船は、これまでも「海警」からたび重なる威嚇を受けてきたが、法律制定後は武力で攻撃される可能性も現実味を帯びる。
日本漁船だけでなく巡視船も攻撃対象になる可能性がある。実際に武器を使用しなくても、武器が使用可能というだけで威嚇効果は大きい。尖閣周辺を航行する漁業者や海上保安官は、さらに大きなストレスにさらされてしまう。
現状を打開するため、石垣市や市議会は尖閣諸島に灯台や気象観測施設を設置し、日本の実効支配を強化するよう政府に求めている。
政府は慎重姿勢だが、中国側に対する切り札として、日本側は実効支配強化のタイミングを見計らうべきだ。だが中国側も、法案で中国の島に他国が構築した構造物を取り壊すことができると規定し、早くも牽制(けんせい)の構えだ。
時間が中国に味方しているというのは、何も尖閣問題に限ったことではない。研究者は、中国の経済力や軍事力は今後も拡大を続け、近い将来に米国を抜く可能性があると見ている。
こうした中国の台頭を国家安全保障の危機だと認識したのが米トランプ政権だった。ボンペオ国務長官は今年7月の演説で「習近平総書記は、破綻した全体主義思想の奉仕者だ」「自由を愛する国々は、中国を変革へと導かなくてはならない」などと述べ「中国への事実上の宣戦布告だ」と世界を驚かせた。
だが、わずか数カ月後、崩壊の危機に瀕したのは中国共産党ではなく、トランプ政権のほうだった。
大統領選で勝利を確実にしたバイデン氏は、トランプ氏が中国に仕掛けた貿易戦争に関し「(中国に)懲罰的な手法は取らない」と明言し、早くも対中圧力は緩み始めている。中国としては、トランプ政権に対し「戦わずして勝つ」との兵法が「現実のものになった」という思いではないか。
時間が中国に味方しているのは、民主派議員の資格剥奪など、民主化運動への弾圧が顕著になってきた香港問題も同じだ。
欧米は中国非難で足並みをそろえているものの、中国の決意を変えさせるには至っていない。国際社会が一致して、トランプ政権が現在行っている経済制裁以上の対抗策を打ち出すべきだが、現時点でそのような動きは見られない。香港での中国支配が日に日に強固になっているのは明らかだ。南シナ海も中国ペースで物事が進んでいる。
中国の進出に対しては、あらゆる面で現状維持は最悪の選択肢だ。多くの日本人がこのことを悟らなければ、尖閣や沖縄を取り巻く状況は今後、さらに厳しさを増す。