知事選で争点の一つになっているのが全国一低い県民所得の問題だ。全国の2倍超とされる子どもの貧困問題や高い離婚率など、沖縄が抱えるさまざまなトラブルが、所得水準の低さに起因する可能性がある。2015年度の1人当たり県民所得は全国平均の319万円より100万円以上低い216万6千円にとどまっている。
経済政策について佐喜真淳氏(54)は「県民所得を300万円に引き上げ、子どもの貧困を撲滅する」、玉城デニー氏(58)は「アジアのダイナミズムを取り入れ、誇りある豊かさを実現する」と主張している。新知事には、県民所得向上に向けた強い指導力の発揮が求められる。
所得向上を阻んでいる要因としては、広大な米軍基地の存在や、高い輸送コストなど離島県ならではの地理的不利性が挙げられようが、見逃してならないのは、子どもの学力が全国最低水準にとどまっていることだ。
学力が低いと、子どもの将来の選択肢は限られてしまう。一般的に、高収入の仕事に就けるかどうかが学歴に左右されるのも歴然たる事実である。
首都圏や大都市と異なり、沖縄には観光と農業以外にこれといった基幹産業がない。新たな産業を興して稼いでいくためには、地元に定着する優秀な人材が欠かせない。全国一低い所得と、全国一低い学力には相関関係があると見ていいだろう。
残念なのは、沖縄では教育行政、学校現場、民間ともに学力低迷問題に対する危機感が薄いように感じられることだ。全国学力テストは地域間、学校間の学力の順位付けを可能にするが、県は「過度な競争をあおる」などとして順位の公表には消極的だ。単に全国最下位を脱出するだけでなく、全国トップクラスを目指す気概がなければ成績は向上しない。しかし、県からはそのような意気込みがなかなか感じられない。現状の打開には強力なリーダーシップが必要だろう。
内閣府の調査では、15年度の県内総生産は4兆1400億円で、前年比の伸び率は全国平均の3・1%を上回る4・7%だった。経済は好調に見えるが、実態は観光産業に依存している面が大きい。
県によると17年の観光客は過去最高の約940万人。観光客の伸びを下支えする外国人旅行者の約80%超はアジアからの訪問者だという。しかし中国人観光客は日中関係の状況により、中国政府にコントロールされる傾向があるとされ、水物と言わざるを得ない。県が沖縄の魅力を積極的に発信し、米国や欧州も含めた新たな客層を開拓することが求められる。
県によると、付加価値の高い製造業比率は全産業の4%と全国最低の一方、非正規雇用の多いサービス業が全国2位の約85%を占める。一方で労働現場での人手不足も深刻化している。
現行の沖縄振興計画は2021年度で期限切れとなり、安倍政権が仲井真弘多前知事に約束した沖縄振興予算の年間3千億円台も同年度までとなる。それまでに、経済的自立に向け、どこまで沖縄の足腰を強くできるのか、新知事の手腕が問われる。
沖縄の経済界は、22年度以降も新たな沖縄振興計画が必要との認識で一致している。新知事は政府との交渉役だ。単に任期中の4年間にとどまらず、向こう10年を見据えた沖縄の未来像を政府や県民に提示しなくてはならない。その意味では前任者以上の重責を担う。基地問題だけが争点でないのは明白だ。