【視点】「辺野古」言及、追悼にそぐわぬ

「慰霊の日」の23日、県主催の沖縄全戦没者追悼式が糸満市摩文仁の平和祈念公園で開かれた、玉城デニー知事は「平和宣言」で「辺野古新基地が唯一の解決策という考えにとらわれることなく『新たな在沖米軍の整理・縮小のためのロードマップ』の作成と、目に見える形で沖縄の過重な基地負担の解消を図っていただくことを要望する」と述べた。
戦火に倒れた人たちに哀悼を捧げる追悼式の場で、知事が辺野古移設問題を持ち出すのは、追悼式の政治利用にほかならない。基地問題を巡る県民の分断を深めるような行為だ。
故・翁長雄志前知事と同じく、玉城知事も就任後初めて参列した2019年の平和宣言には明確に移設反対を盛り込んでいた。だが昨年の平和宣言では、直接的に移設反対を表明することを避けた。未来志向の判断だったが、一方で基地反対派からは厳しい批判を浴びた。
来年に知事選を控え、今年は支持層に配慮したのだろうか。知事の平和宣言は、表現こそやや穏当になったとはいえ、移設断念を政府に強く迫った2年前の宣言に逆戻りしている。県の公的行事でこのようなことが続く限り、県民同士の対立の火種はくすぶり、政府との関係改善も遠のく。
平和宣言で知事が米軍基地の整理縮小を求めることに異論はない。しかし辺野古移設のような特定の政治問題に踏み込んで発言するのは、慰霊とは何の関係もなく、どう考えても本来の趣旨にそぐわない。
追悼式には首相の出席が恒例だったが、昨年に続き、今年もコロナ禍のため、招待は見送られた。菅義偉首相はビデオメッセージを寄せ「基地負担の軽減に向け、一つ一つ、確実に結果を出していく決意」と強調した。
現行の沖縄振興特別措置法は来年3月で期限切れを迎えるが、来年5月の沖縄復帰50年に向け、新たな沖縄振興の在り方について検討する考えを示した。
首相が沖縄最大の課題である基地と振興に言及している点は評価できる。だが辺野古を巡る県との対立を反映してか、紋切り型で、首相の個人的な思いが今一つ伝わらないのは否めない。
コロナ禍前の追悼式では、当時の安倍晋三首相に対し、毎年のように参加者から激しい野次が飛んだ。昨年からは参列者の人数が絞られ、首相あいさつがビデオメッセージになったため、こうした行為はなくなった。
皮肉ではあるが、コロナ禍が追悼式を本来あるべき姿に近づけたと言える。追悼式の運営方法を見直す、いい機会である。来年以降、追悼式が通常の形に戻ったとしても、県は主催者としての責任を持ち、参列者の非礼な行為を排除してもらいたい。
戦後76年が経過し、身の回りの戦争体験者はどんどん減少している。若い世代にとって、戦争は遠い他国のニュース映像や、ゲームの中の出来事でしかなくなりつつある。
一方で沖縄を取り巻く現状に目を向けると、膨張する隣国との緊張関係が続き、戦争の危険はむしろ増している。コロナ禍も一種の戦争だったと言える。
真の平和とは何か。沖縄はこれからの世界で、どのような役割を果たせるのか。若い世代にこそ思いを巡らせてほしい。

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