市民は安定的な市政運営と、経済回復への期待を託したと見ていいだろう。任期満了に伴う石垣市長選は2月27日投開票され、現職で自民、公明の推薦を受けた中山義隆氏が4選を果たした。
中山氏が選挙戦で最優先に訴えたのは「脱新型コロナウイルス」と「景気回復」だった。新型コロナの影響で観光客が激減し、多くの市民が経済的苦境に陥っており、選挙戦で中山氏の訴えが市民の心に届きやすい状況だった。
中山氏は「3期目の最後の2年間はコロナで仕事ができなかった」と4選出馬の理由を説明したが、石垣市のコロナ対策は内外で高い評価を得ていた。いち早いPCR検査機器の導入、県内自治体で1、2を争う迅速なワクチン接種などがその例だ。
デルタ株やオミクロン株の出現で感染拡大そのものを抑えることはできなかったが、感染者の重症化率は低く、スピード接種の効果は大きかったはずだ。市民はそうした中山氏の実績を信頼し、さらに次の4年間を託す選択をした。
一方、対抗馬の前市議、砥板芳行氏も石垣市で史上初の保革共闘体制を構築。「独善的で一部の声しか聞かない市政を変える」と訴え、新庁舎屋根の赤瓦に県外産が使われた問題などを追及した。
ゴルフ場付きリゾート施設に関しては環境保全の観点から計画の見直しを求め、陸上自衛隊配備の賛否を問う住民投票で反対住民の意思をすくい上げる考えを示した。
1万4千票余りを獲得した中山氏に対し、砥板氏の得票は1万2千票台で、票差は約2400票。選挙関係者によると、2000票差というのは何かあれば容易にひっくり返せるという。選挙戦の風向きによっては、砥板氏が勝利した可能性も十分にあった。
投票者のうち約45%が中山氏4選に反対の意思を示したことも、また事実だ。中山氏は選挙戦で砥板氏が訴えたことを吟味し、正すべきは正していく必要がある。
石垣市は尖閣諸島を行政区域に抱え、陸上自衛隊配備が進んでおり、安全保障の要地である。市民の安心安全を確保する上で、配備に協力的な市政が継続する意義は大きい。市長選の結果を追い風に、防衛省は来春の駐屯地開設を着実に進めるべきだ。
ただ、それは砥板氏が指摘したように「住民の懸念を置き去り」にしてもいいという意味ではない。住民投票を行う必要はないにせよ、中山氏は計画に反対する住民の不安に真摯に向き合い、住民生活に影響が出ないよう防衛省と調整してほしい。
中山氏は当選から一夜明けたインタビューで、5選出馬について問われたが明言を避けた。ただ過去に石垣市で5選を果たした市長はいない。
いずれにせよ中山氏は、4期目が集大成の任期になるという覚悟を持つべきで「公約を100%実現できた」と胸を張れる4年間にしてほしい。