前回の続き。読者からの質問で二番目に多かったのが「勝手に持って帰ったら捕まるのだろうか」というもの。
そもそも、海底の遺物を持ち帰るというのは、「落とし物を拾う」行為に相当する。陸上で物を拾えば警察に届けるのが義務だ。では水中の場合はどうか。
まず、海岸等に有価物(割れていない皿や壺など)が漂着した場合は、遺失物法の適用を受ける。一方、有価物が漂流物又は沈没品として回収された場合は、水難救護法の適用を受けることになる(平成19年3月 漂流・漂着ゴミ対策に関する関係省庁会議)。要するに、法律が違うのだ。
違う点はもう1つある。陸上の場合、届け出先は警察署だが、水中の場合は地元の自治体が遺失物の管理をするのだ。陸上同様、水中の有価物についての保管期間は6カ月。その時点で遺失者が名乗り出ない場合は、拾い主のものとなる。もっとも、この水難救護法自体が一般的に知られておらず、拾い主が届け出ずに自分の物としている可能性は捨てきれない。
なお、違反した場合は遺失物横領罪が適用され、1年以下の懲役または10万円以下の罰金となる。見つけたら、自治体に届けよう。
日本の埋蔵文化財保護行政は、昭和40年代以降、陸上で行われる開発事業への対応が優先されてきた。そのため、水中遺跡保護の取組が積極的には進むことはなく、国民の興味や関心もあまり高まりを見せなかった。奈良の明日香村や佐賀の吉野ヶ里のような、誰もが知っている遺跡が、海中の場合には無いという事情もある。
もっとも、歴史的な価値となると話は別だ。こうした状況をまとめた奈良文化財研究所では「水中遺跡から得られる情報は我が国の歴史と文化をよりよく理解するためには欠くことのできないものであり、その内容の解明と適切な保護措置を執ることが必要である」と訴えている(『水中遺跡保護の在り方について』報告7ページ)。その具体例として言及している「我が国における水中遺跡保護に関する取組」の中に、沖縄県沿岸地域遺跡、ベナレス号沈没地点(沖縄県国頭村)、ファンボッセ号沈没地点=写真1=(高田海岸遺跡)などをあげている。
つまり、専門家からすれば、今後の追加調査が必要な貴重な遺跡であり、そのような現場の遺物を「フジツボやサンゴを削り落としてオークションにかけて一攫千金」などと考えない方が良いとなろう。
また、こうした取得行為そのものに危険が伴うことにも注意してもらいたい。(続く)