【視点】運命を分けた沖縄と香港

香港が英国から中国に返還され、1日で25年となった。この間、中国政府の独裁的支配が強まり、民主主義勢力は壊滅した。現地では習近平国家主席が記念式典に出席するなど、官製の祝賀ムードが盛り上がっているようだだ。
奇しくも1カ月半ほど前には、米国統治下にあった沖縄が日本に復帰して50年を迎えた。沖縄と香港は共に本土から切り離された歴史を持ち、似たような境遇にあったと言える。だが、祖国への返還(復帰)後に置かれた状況は全く異なる。
沖縄は落ち着いた雰囲気の中で復帰50年を迎えた。主要メディアには佳節を祝う論調はほとんどなく、いまだに続く米軍基地負担への批判が報道の大半を占めた。
その意味では、沖縄ではほとんど祝賀ムードは感じられなかったが、それは「祝う」ことを強制する政府機関が存在していないことの裏返しでもある。
沖縄では復帰後50年の歩みを県民自らが検証し、米軍基地問題も含め、さまざまな課題を自由に議論できる。政府を批判しても逮捕されることはない。
県民は、そうした民主主義国家としての日本のあり方を素直に評価している。各種世論調査では、圧倒的多数の県民が「復帰してよかった」と回答した。
これに対し香港では「国家安全法」のもと、政府への抗議行動は徹底的に弾圧され、中国政府に批判的なメディアは姿を消した。香港住民がこの現状をどう感じているのか知りたくても、今の香港で世論調査のような活動はそもそも違法になるだろう。住民の多くは各国メディアの取材にも固く口を閉ざしているという。
今、日本や欧米は節目の年を迎えた香港に憂鬱な視線を向けている。香港の住民自身もそうであるに違いない。
帰るべき祖国が民主主義国家か、強権国家かの違いで、沖縄と香港の住民は大きく運命を分けた。途中までは同じ道のりを歩んだ「仲間」として、沖縄県民も香港を全くの他人事として捉えるべきではない。
20世紀には2度の世界大戦があり、その深刻な反省から日本人は人権や平和の大切さを学んだ。科学技術が急速に発展し、未来には便利な生活や充実した医療が実現すると信じた。
だが21世紀に入って20年、強権体制の国家が急速に存在感を増し、世界の至るところで民主主義的価値観を破壊している。その代表格が中国だ。
大国による侵略戦争も勃発し、平和がもはや当たり前ではなくなった。さらには未知のウイルスによる疫病が世界を覆い、いまだに収束と呼べる状況には至っていない。
仏教ではこうした時世を「末法」と呼ぶことがある。「世も末」ということだ。今の香港を見て、その言葉を使わずにはいられない。
中国は21世紀の覇権国家を目指し、民主主義の旗手である米国と激しく競い合っている。中国が新たに構築しようとする国際秩序がどのようなものであるのか、モデルケースとなるのが香港だ。その意味で国際社会も、香港の今後に注目せざるを得ないはずだ。

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