政府が有事を見据え、自衛隊や海上保安庁が円滑に利用できるよう整備する「特定利用空港・港湾」は今月、全国で28カ所になった。
指定は4月の16カ所を皮切りに各地で進んでいる。沖縄では4月に指定された国管理の那覇空港と石垣市管理の石垣港だけだが、全国では福井、熊本、鹿児島で追加指定があった。
沖縄で追加指定がないのは、地元自治体が要望する新石垣空港(石垣市)や与那国空港(与那国町)などの指定に管理者の県が同意していないからだ。全国的に「特定利用空港・港湾」が増える中で、同意に応じない沖縄のかたくなな姿勢が目立つ。
地元自治体は、指定によって国の予算が投入され、空港や港湾の機能強化が進むと期待している。一方、県が指定に同意しないのは、支持基盤である革新系政党や団体などが「指定されれば有事に攻撃対象になる」と反対しているためと見られる。
玉城デニー知事を支える「オール沖縄」勢力は、石垣市や与那国町を含む衆院選沖縄4区の候補者選びに向けて公開討論会を開催した。この中でも「特定利用空港・港湾」指定がテーマの一つになり、立候補を目指す3人はいずれも指定を阻止する意向を明言している。
衆院選は年内にも実施される見通しで、自民党候補は指定受け入れを主張すると見られる。この問題が争点化されるのは確実だ。
県は離島の空港・港湾が「特定利用」に指定された場合、巨額の整備費が投入され、沖縄振興予算を圧迫する可能性があるとの懸念も表明している。
与那国町議会の町議団は今月27日、県庁を訪れ、与那国空港と今後整備される可能性がある新港湾を「特定利用空港・港湾」に早期指定するよう要請した。だが県側は、民間需要が見込めないとして従来の消極的な姿勢を崩さなかった。
「特定利用空港・港湾」を巡る問題で特徴的なのは、石垣市や与那国町が空港・港湾整備を求め、国も予算支出に前向きな姿勢を示しているのに、県が政治的な理由から立ちはだかっているように映る点だ。県と市町村との関係で、このような対立構造は恐らく過去に例がない。いびつな状況と言える。
全国で「特定利用」の指定が進んでいる状況を見ても、地元の意向に反し、いつまでも県が同意を拒んでいられるとは思えない。結果が見えている以上、時間をむだにしないためにも、県は早期に同意の姿勢に転じるべきだ。
人口が少ない離島のインフラ整備は、人口が集中する沖縄本島より後回しにされる傾向があるのは否めない。そこにあえて光を当てるのが離島振興であり、政治のリーダーシップでもあるが、現在のところ、玉城知事にそうした前向きな動きが見られない。
米軍普天間飛行場の辺野古移設反対に忙殺されているのであれば、一度立ち止まって足元を見つめ直す時期である。