【視点】防衛強化、批判する相手が違う

 政府が進める防衛力強化に対し、玉城デニー知事の批判的な姿勢が目立っている。
 反撃能力(敵基地攻撃能力)保有などを盛り込んだ政府の安全保障3文書改定を巡り、玉城知事は「詳細が明らかにされないまま閣議決定され、非常に残念」とコメントを出した。
 報道各社の新春インタビューでは、防衛省が沖縄の陸上自衛隊を増強する方針を示していることに対し「自衛隊の増強は、さらなる基地負担増にほかならない」と述べた。
 12月23日の定例記者会見でも「私の認識では、敵基地攻撃能力は保有できない」と明言した。
 知事が沖縄を取り巻く国際情勢を直視しないような発言を繰り返しているのは残念だ。
 今年は沖縄にとって厳しい年だった。隣の軍事超大国である中国が、平和を願う県民の心情を一顧だにせず、沖縄に対する露骨な脅迫や威嚇をさらに強めてきたからだ。
 最も衝撃的だったのは、8月、中国が台湾を包囲する軍事演習を行い、与那国島や波照間島の周辺に数発の弾道ミサイルを撃ち込んだことだ。その後の報道で、習近平国家主席が直接、日本のEEZ(排他的経済水域)内を狙うよう軍部に指示したことが明らかになった。
 これは将来の台湾侵攻を念頭に、日本が介入の動きを見せた場合、八重山の島々をミサイル攻撃すると宣言したに等しい。
 防衛省統合幕僚監部によると、中国空母「遼寧」を中心とした海軍艦隊は12月17日から22日までに、沖縄周辺の太平洋上で戦闘機などの離発着訓練を180回繰り返している。
 5月にも同様の動きがあったが、今回は日本の安保関連3文書改定のタイミングを狙った示威行為との見方が強い。
 空母からの戦闘機離発着訓練は、自国防衛のためではなく、明らかに他国への攻撃を想定したものだ。わざわざ沖縄と目の鼻の先で、このような訓練を行う意図は何か。台湾も念頭にあろうが、沖縄に対するあからさまな軍事的威圧と言わねばならない。
 石垣市の行政区域である尖閣諸島周辺でも、中国は過去最大級とされる76㍉砲を搭載した艦船を新たに派遣した。中国艦船の領海侵入は恒常的に繰り返され、日本漁船に接近、追尾する操業妨害行為は、今年、すでに11件を数える。
 中国は尖閣諸島を「台湾に付属する島々」と位置付けており、台湾有事と尖閣有事は連動する可能性が高い。
 自衛隊関係者は、中国が台湾侵攻と並行し、背後の守りを固めるため、周辺にある与那国島、石垣島への攻撃に踏み切るかも知れないとの見方を示している。しかもその時期は、国際情勢にもよるが、数年以内の可能性が高いという。
 沖縄戦を経験した県民は戦後70年余り、沖縄を平和の発信拠点とすることを念じ、中国、台湾を含めたアジア諸国や地域と地道な交流を続けてきた。
 中国はその沖縄を、自らの野望のため、あえて戦禍に巻き込もうとするのか。そもそも台湾侵攻は断じて許されるべきではない。知事は防衛力強化を図る日本政府にではなく、誇大妄想的な隣国の独裁者に対し、明確な抗議の意思を示してもらいたい。

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