【視点】防衛産業の活性化で成長を

 岸田文雄政権は2023年度から5年間で防衛費を43兆円に増額し、国内総生産(GDP)の2%規模とする方針だ。低迷が続く日本経済だが、政府の「巨額投資」を起爆剤に防衛関連産業を活性化させ、他産業への波及効果を含め、経済全体の底上げを図るべきだ。
 日本の平均賃金は先進主要7カ国(G7)では最低水準で、30年間ほとんど上昇していない。日本企業が技術革新(イノベーション)を起こせず、他の先進国や新興国の企業の後塵を拝し、賃上げの余裕を失ってしまっているためだ。
 アベノミクスでカンフル剤のように大規模な金融緩和が行われているものの、現時点で日本企業の元気のなさは変わらない。円安の影響もあり、今年1月の貿易赤字は過去最大となる3兆円超に達し、国富の流出も進んでいる。
 世界3位の規模を誇る日本のGDPも、早ければ今年にもドイツに抜かれ、世界4位に転落する可能性があるという。
 日本の経済規模はアジアでは既に中国に抜かれたが、将来的にインドなどの新興国にも抜かれる見通しで、現在の低落傾向が続けば、いずれ「経済大国」の地位も失う。現在の豊かな暮らしを、子や孫の世代まで維持できない恐れがあるということだ。
 経済成長は本来、民間主導で実現するものだ。しかし日本は少子高齢化の影響も大きく、民間活力が衰退の一途をたどっているように見える。経済再生に向けた政府主導のテコ入れが必要な時期ではないか。
 日本では「軍事」という言葉にアレルギーがあるが、インターネットをはじめ、軍事技術の民間転用で生まれたとされる新技術は多い。AI(人工知能)、空飛ぶクルマなど、今後の世界をリードすると見られる研究分野も、軍事技術とは切っても切り離せない。
 国産ジェット機の開発中止を決めた三菱重工は航空自衛隊の次期戦闘機開発に舵(かじ)を切ったという。企業は防衛費の大幅増を技術革新の実現に向けた一つのチャンスと捉えるべきだ。
 失われた経済の活力を取り戻し、厳しい安全保障環境に即応可能な防衛力整備を進めることができれば、日本の将来にとって一石二鳥の効果がある。
 日本学術会議は1950年の声明で軍事技術の研究を拒んできたが、昨年7月、軍事と民生の技術を単純に二分化することは困難だとして、軟化の姿勢を示した。
 琉球大学も「軍事目的研究を行ってはならない」と定める。沖縄戦の歴史や複雑な県民感情が背景にあるが、国際社会の実情を見れば現実的な対応ではなく、かえって研究者の正当な活動を阻害しかねない。
 大学や組織によるこの種の自主規制は、再検討が必要な時期にさしかかっている。

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