【視点】「辺野古」だけが争点か

 知事選は13日告示され、30日の投開票まで17日間の選挙戦が始まった。前宜野湾市長の佐喜真淳氏(54)=自民、公明、維新、希望推薦=と前自由党衆院議員の玉城デニー氏(58)による事実上の一騎打ちである。
 最大の争点は米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設の是非と言われているが、果たしてそうか。佐喜真氏、玉城氏とも、出陣式、出発式での第一声で、この問題に触れた時間はごくわずかだった。
 事情はある程度推測できる。辺野古移設をめぐっては、政府が「宜野湾市民の危険性除去と抑止力の維持を両立する唯一の手段」として推進している。しかし県内メディアは「県内移設では負担軽減にならない」としてほぼ反対一色だ。
 このため辺野古移設に対してはネガティブな報道が多く、反対の市民運動も目立つ。一般の有権者に辺野古移設への悪印象が浸透してしまい「容認」を明言しにくい空気感がある。言い換えれば、賛否それぞれの立場でバランスよく意見交換する土俵が整っていない。佐喜真陣営が移設の是非に言及しないのは、一部で言われるような「争点隠し」ではなく、やむを得ない選挙戦略という面もあるだろう。
 「新基地建設反対」を明言する玉城氏側の事情も単純ではない。3月の名護市長選で「オール沖縄」勢力の現職が移設反対を前面に掲げて戦った結果、新人に予想外の敗北を喫した。市民、県民の関心は辺野古移設の是非より、住民生活により密着した子育て支援や経済振興策などにシフトしつつある。「反対」だけを訴える選挙戦では有権者の理解を得られないことが明らかになった。
 両者それぞれに思惑を抱えた結果、「辺野古移設の是非」が最大の争点とされながら、両候補とも演説では子育て支援などを強調し、辺野古をめぐる論戦はむしろ低調だ。もはや辺野古は、さまざまな争点の中の一つという位置づけが妥当ではないか。少なくとも翁長雄志知事が初当選した前回2014年知事選とは、雰囲気は一変したというべきだろう。
 ただ普天間飛行場を取り巻く客観的な情勢としては、辺野古移設が推進されれば返還が現実味を帯びるが、阻止されればその日は遠のくのが現実と言わざるを得ない。この点に関しては佐喜真、玉城氏ともあえて言及を避けているように見えるが、このままだと論戦が不完全燃焼のまま終わりかねない。
 むしろ最大の争点としては、翁長県政で先鋭化した国との対立路線が継続されるのか、あるいは協調路線に転換するのか、を挙げてもいいのではないか。
米軍基地問題で翁長氏が政府や本土を厳しく批判し続けたことは、沖縄の実態を広く全国に発信する功績の一方「沖縄と本土との分断」とすら呼ばれる対立関係を出現させた。その功罪を県民が正しく判断する必要がある。
 佐喜真氏が呼び掛ける「協調」が国への追従を意味するなら県民の理解を得られないし、玉城氏が翁長県政の反省を生かさないなら地域振興は危うい。両者のバランス感覚を有権者は見抜くべきだ。
 沖縄は日本の国境に位置し、全国どの地方よりも安全保障問題を切実に感じるべき地理的条件にある。にもかかわらず知事選では尖閣諸島問題、自衛隊配備問題、北朝鮮問題など、安全保障に関わるテーマがほとんど話題になっていない。これはおかしな現象だ。
 沖縄の将来を左右する選挙の論戦が、耳あたりのよいテーマだけに終始するなら、県民の成熟度も問われてしまう。

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