すぐに飛び立たず「ワシだけどワシじゃない」 カンムリワシ交通事故急増 朝夕が危険

カンムリワシ=(環境省石垣自然保護官事務所提供)

 石垣市内のカンムリワシの交通事故被害が増えている。昨年1年間の10件にくらべ、今年はすでに5件と発生ペースが加速。うち2件は死亡にいたった。事故はどのような状況で起きているのか。5件を検証し、対策を探った。    (新垣翔太)

 ■事故の状況
 今年最初のカンムリワシの被害は1月9日、川平の県道79号沿いの「荒川の滝」で溺れた状態で発見された。右翼上腕骨折、口腔内から著しい出血があったことから、交通事故に遭い、溺れたと推測されている。動物病院に搬送後、死亡が確認された。
 2月1日午前7時20分ごろには、崎枝の県道79号の道路脇に仰向けで倒れている個体が発見された。診察の結果、左翼骨折していたため、車両にはねられたとみられる。この個体は治療とリハビリを受け、今月12日に放鳥された。
 2月13日午前、於茂登トンネルを桴海方面に抜けた県道79号沿いで、カンムリワシが走行車両のフロント部分に接触。自力で飛び去った。ドライバーからの連絡でわかった。
 3月19日午前、野底の県道79号沿いで発見された個体は、右翼が骨折でちぎれかけ、右顔面も強打したらしく、眼にも神経症状が出ていた。
 今月4日午前7時25分ごろ、大浜の赤下橋付近市道で発見された個体は、主だった外傷はなかったが、診察の結果、首の骨が折れていたため、走行車両と正面から衝突したと見られる。搬送時に死亡した。
 ■独特の習性
 環境省石垣自然保護官事務所によると、交通事故に遭う時間帯は、朝と夕方が多い。「エサとなるカエルやヘビ、虫などの活動時間に合わせ、道路の脇などで待ち伏せている」(山本以智人上席自然保護官)という。
 カンムリワシは他の「鷲」と異なり、独特の習性があるという。性格は穏やかで、飛び上がるまでの時間もゆっくりだ。そのためドライバーは、道路上にカンムリワシを視認したとしても「鳥だからすぐに飛んで避けるだろう」と判断し、速度を落とさないまま走行してしまい、交通事故につながっていると考えられている。
 また、事故に遭った個体は、今年に限っていえば成鳥とみられているが、これまでのデータでは、3歳までの若鳥の被害も少なくない。事故の発生場所に顕著な傾向はなく、市街地以外の全ての道路上で発生している。
 ■対策
 カンムリワシは環境省レッドリストの絶滅危惧種1A類で、最も絶滅リスクが高い。無駄な死を防ぐには、ドライバーが安全運転を心がけることと制限速度を守ることしかない。行政機関や民間団体は、SNSの活用や観光客がレンタカーを借りる際に注意喚起をするなどの働きかけをしている。注意標識の看板も設置も台風シーズンを除き行っている。
 しかし、交通事故の件数は年々横ばいで、ドライバーの意識を変えるには至っていないのが現状。山本氏は「まずカンムリワシの特性を知ってもらうことが大切」だと言う。事故の当事者から連絡があることは少なく、「どうせ野生動物だから」「どこに連絡すれば良いのか分からない」というケースが多いという。山本氏は「故意ではなく事故であれば、罰則はない。早急に連絡してほしい」と訴える。通りすがりの車両が見つけて連絡したが、間に合わなかったケースもあるという。
 3月24日には市が主体となってカンムリワシの交通事故に関する行政や民間団体による連絡会議が開かれた。山本氏は横断的な話し合いの場が設けられたことに期待感を持っている。「試行錯誤で対策を練っている。これから様々な機関と連携して、対策を模索していき、カンムリワシの交通事故を減らしていければ」と危機感を募らせている。
 カンムリワシの傷病個体や死体を発見した場合は同事務所(℡82・4768)か、西表島野生生物保護センター(℡84・7130)まで。

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