台湾有事に備え、政府が南西諸島を中心に空港や港湾の機能強化に乗り出しており、八重山でも新石垣空港の滑走路延長などが、にわかに現実性を帯びてきた。3市町は従来、観光インフラ整備の観点から滑走路延長を国、県に要望してきたが、近年では有事の際、住民の避難を円滑に進めるためにも延長が必要だと訴えている。離島住民として、早急な事業の具体化を望みたい。
政府は昨年12月に安保関連3文書を改訂し、国家安全保障戦略で安全保障上重要な空港・港湾の強化方針を打ち出した。台湾に近い南西諸島を中心に「特定重要拠点空港・港湾」(仮称)を指定し、新規事業の導入や既存事業の促進で機能強化を図る考えだ。自衛隊や海上保安庁がスムーズに空港・港湾を利用できるようにする狙いがあり、来年度の予算付けを目指すという。
八重山では大型クルーズ船に対応するバースの整備など、石垣港の整備が港湾計画に基づいて進められている。政府方針を受け、市側は「事業が一歩も二歩も前進する」と歓迎している。
問題は、3市町が要望しながら、これまで停滞してきた空港や港湾の整備だ。新石垣、与那国、波照間の3空港の滑走路延長に関しては、空港管理者である県が「民間の需要が見込めない」として難色を示してきた。
先日も八重山市町村圏事務組合議会の要請に対し、県は波照間空港と与那国空港の滑走路延長に関しては明確に否定、新石垣空港に関しては検討の余地があると回答したものの、前向きな姿勢は示さなかった。
数字上の需要予測だけで費用対効果を考えれば、確かにそのような結論になるのかも知れない。県も有事対応は別の話だとしている。
八重山周辺では台湾有事の懸念だけでなく、尖閣諸島を巡る問題も深刻化している。有事が勃発してから泥縄式に住民保護を考えるのでは、手遅れになってしまう。
政府の関係省庁職員が今月5日、石垣市役所や竹富町役場を訪れ、特定重要拠点の指定に向けた考え方を説明した。有事対応として、政府が3空港の滑走路延長などを真剣に検討するというシグナルだと受け取れる。これまで停滞していた与那国町の港湾整備も進む可能性がある。政府は議論を加速化してほしい。
ただ、基地反対派の中には、有事対応のインフラ整備を「沖縄の軍事要塞化だ」と決めつけ、警戒する声も存在する。
「オール沖縄」と呼ばれる現県政も、基地反対派が重要な支持基盤だ。こうした声に流され、空港・港湾整備に県が非協力的な姿勢を示し、事業が停滞する可能性を危惧する。離島住民として、そのような態度が認められないのは当然だ。
政府も特定重要拠点の指定に当たっては、民間利用と自衛隊・海上保安庁の利用を両立させる考えを示している。八重山の空港や港湾が、軍事施設に一変してしまうというたぐいのものではない。国、県、地元自治体が同じ危機意識を持って連携することが大切である。