【視点】頼氏当選 台湾との連携強化を

 台湾総統選では与党、民進党の頼清徳副総統が初当選し、中国と距離を置く民進党の候補が初めて3期連続で政権を担うことになった。
 地理的に近い八重山ではもともと、台湾に対する関心が高い。最近は台湾有事への懸念が急速に高まり、例年にも増して総統選の行方に注目が集まっていた。
 台湾総統選は、民主主義の手続きを経てリーダーが選ばれたことに何より大きな意義がある。共産党一党独裁の中国は台湾統一を主張するが、眼前で台湾の民主主義が機能している事実を見せつけられ、さぞ不快に感じていることだろう。
 独裁国家の膨張に対し、民主主義の厚い壁をつくる。これこそ、台湾の存在が世界的に重要である理由だ。
 台湾に対する軍事や経済面での圧力がさらに強まることが予想される。日本は民主主義陣営の一員として台湾との連携を強化し、中国の不当な干渉をはねのけ、地域の平和と安定に尽力しなければならない。
 一般的に民進党は独立志向、国民党は親中的と報道され、民進党候補が勝利すれば、台湾有事の危険性が高まるという主張も見られた。だが総統選では、第三勢力、台湾民衆党の候補も含め現状維持を主張し、独立や中国との統一を訴える声はなかった。
 仮に国民党の候補が勝利したとしても、中国は民主主義的な選挙制度そのものの存続を忌避しているのだから、いずれ台湾を吸収する形での統一をもくろむはずだ。つまり政権が民進党であろうが国民党であろうが、日本は、台湾有事の可能性を常に意識しながら行動すべきことに変わりはない。
 総統選の結果を受け、中国の王毅外相は、台湾が中国の一部だという基本的事実は変えられないとして「中国は完全統一を実現する」と述べた。
 上川陽子外相が頼氏に祝意を示したことに対し、在日中国大使館は「中国の内政に対する深刻な干渉」と抗議した。中国政府として民主的な選挙の結果を受け入れないとの意思を明示した形だ。
 総統選では、民進党候補に不利なフェイクニュースが多数流布され、中国が発信源ではないかと疑われている。中国政府ぐるみの不当な選挙介入があったのなら許せない。
 台湾が中国に吸収されれば、沖縄・八重山は台湾という緩衝地帯を失い、巨大な独裁国家と直接的な対峙を余儀なくされる。県民として、ことさら「一つの中国」に反対したり、台湾独立を支持するわけではないにせよ、台湾の民意にそむく形での統一は「沖縄としても受け入れらない」との意思を明確にすべきだろう。
 日本最西端の与那国町は、台湾との交流に強い熱意を燃やしている。糸数健一町長は「幸い民進党の候補が勝利した。(台湾と与那国の)一大経済圏をつくり、人と物の往来が自由になることが安全保障にもつながる」と頼氏の当選を歓迎した。
 石垣市と与那国町は台湾との定期高速船就航を目指して調整を進めている。沖縄と台湾で民間レベルの交流を深化させ、相互が経済的利益を最大化できる仕組みを作っていきたい。総統選の結果を受けた台湾の政権安定化は、そうした取り組みにもプラスに作用するだろう。
 蔡英文総統は能登半島地震に際し、X(旧ツイッター)に「日本有事はつまり台湾有事」と発信するなど、親日的な姿勢が目立っている。頼氏もそうした傾向が強いとされる。民進党政権としての戦略だとしても日本人としては心強いが、台湾が常に日本寄りの姿勢とは限らない。
 国民党の馬英九政権時代は、尖閣諸島の領有権を強硬に主張し、日本と真っ向から対立したこともあった。民主主義の台湾が存続するということは、いずれ国民党への政権交代も有り得るということだ。日本としては外交・安全保障面で、あらゆる事態を想定して準備しておかなくてはならない。

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