【視点】ロ反体制派死亡 民主主義の危機

 もし自分が殺害されたら、どんなメッセージを遺したいか―。ロシアの反体制活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)を描いたドキュメンタリー映画は、本人に対し、そんな衝撃的な問い掛けから始まる。笑顔で「やめてくれ」と質問をかわしたナワリヌイ氏だが、最後にはこう答える。「あきらめるな。行動をやめるな」。
 ロシア当局は、北極圏の刑務所で服役中のナワリヌイ氏が死亡した、と発表した。散歩後に突然死したというが、当局の言い分をうのみにする者はいないだろう。ナワリヌイ氏の広報担当者は、殺害されたとの見方を示した。
 ロシアでは、プーチン大統領の政敵や反体制派が次々と死亡しており、最近ではウクライナ戦争で反乱を起こした民間軍事会社創設者プリゴジン氏がジェット機墜落「事故」の犠牲になった。国際社会では、一連の変死はプーチン政権による暗殺との見方が強い。
 ロシアは大統領を国民の選挙で選ぶ民主主義制度を採用しているが、国家の実態は、政権に盾突く者が次々と粛清されたソ連時代と大差ない。ナワリヌイ氏の死亡は、ロシアがプーチン氏の独裁国家に変貌したことを改めて浮き彫りにした。
 いくら制度だけ整えても、恣意的に運用されれば民主主義は機能しないという一例だ。
 ナワリヌイ氏は弁護士で、プーチン政権の腐敗を厳しく批判。大統領選に立候補する意向を示したが妨害され、2020年には政治活動中、毒物を盛られて瀕死の状態に陥った。
 ドイツで治療を受けて回復したが、母国で政治活動を続けるため、拘束されるのを覚悟の上で帰国。空港で逮捕され、計約30年の懲役刑となり、以後、約3年にわたり収監されていた。
 民主主義の回復を目指したナワリヌイ氏は、ロシアが関係する戦争にも一貫して批判的だった。彼がロシアのリーダーであれば、ウクライナ戦争は起こらなかったはずだ。
 歴史を振り返ると、戦争は常に独裁国家が仕掛けている。
 民主主義国家では人権や平和といった価値が優先されるため、紛争を武力で解決する動機は低い。だが独裁国家は指導者の決断で容易に戦争に突入し、ブレーキをかける国内勢力もない。国民の不満をそらすため常に外敵をつくり、好戦的な言動が目立つのも独裁国家の特徴だ。
 ロシアのような大国で民主主義が機能しないことは、国際社会で平和を構築する上でも深刻な事態である。
 ロシアとよく似た独裁体制で、経済的にさらに強力な国が中国だ。ロシアとの協力関係を緊密化しながら、その軍事活動は台湾、そして沖縄の八重山周辺まで迫っている。台湾有事の懸念も強まっているが、中国が今後、どのような道を歩む可能性が高いかは、ロシアの姿が雄弁に示唆している。
 独裁国家に平和や人権を訴えても効果が薄いのは、独裁国家が民主主義国家と価値観を共有しておらず、人命ですら支配勢力のイデオロギーに従属するものと捉えているからだ。
 沖縄でも台湾有事を起こさせないための取り組みがよく議論になり、玉城デニー知事は日本政府への要請行動や記者会見で、ことあるごとに平和外交を求める。だが独裁国家に戦争を断念させるには、平和外交だけでは不十分で、抑止力の充実強化が必要である。
 ナワリヌイ氏はドキュメンタリー映画で「悪が勝つのは、善人が何もしないからだ」と語った。民主主義が危機に瀕している。日本には国の内外を問わず、自由と人権を守るため、独裁国家と渡り合う覚悟が求められる。

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