【視点】佐賀県知事訪問 町民の励みに

 台湾有事を念頭に、政府によって与那国町民の避難先に想定されている佐賀県の山口祥義知事が同町を初訪問した。与那国町は台湾に近い日本最西端の国境の島で、住民は他の自治体にもまして台湾有事の可能性を懸念している。避難先の首長が現地を訪れたのは、不安を抱く町民に寄り添う姿勢を示すもので、町民には励みになる。有意義な訪問だ。
 与那国町の糸数健一町長は昨年9月17日、町民受け入れに感謝の意を示すために佐賀県庁を訪れ、山口知事と面談した。山口知事の与那国訪問は、糸数町長の佐賀訪問を受けたものだ。
 佐賀県は与那国町民約1700人の受け入れを想定した「初期的な計画」を策定し、3月27日にホームページで公表した。それによると、与那国町祖納地区、比川地区住民を佐賀市、久部良地区住民を鳥栖市で受け入れる。ホテル、食料、生活必需品の手配、保健師の派遣、福岡空港から収容施設までの住民の移送などを行うとしている。
 糸数町長との面談で山口知事は「町民とふだんからいい仲間のような付き合いをさせてほしい」と述べ、有事対応にとどまらず、さまざまな交流を進めたい意向を表明した。
 糸数町長は「避難しなくて良かったというのがベストだが、万一に備えて準備しなくてはならない」と強調した。町民の偽らざる心境だ。
 有事の避難計画には現実的な問題が山積している。本当に身一つで逃げなくてはならないのか。避難後の生活はどうするのか。事態が落ち着いても、島に帰り、元通りの生活に戻れるのか。
 台湾有事の可能性をどう評価するかは人によって異なるものの、地理的に台湾に近い先島諸島の住民が「有事」を自分ごととして考えなくてはならない事態に直面している現実は変わらない。
 遠く離れた本土では離島住民の感覚を実感しにくいが、山口知事も現地を訪れ、町民の生の声を聞くことで、そうした切迫感を理解できたのではないだろうか。
 離島住民は沖縄本島とも温度差を感じている。有事対応に限らず玉城デニー知事の存在感は、離島では依然として希薄なままだ。
 九州、山口の知事会が先島諸島住民の受け入れを決めた九州知事会の会合に玉城知事が欠席し、沖縄で選挙応援していたことも県議会で追及された。
 沖縄本島では台湾有事よりも米軍基地問題への関心が高く、有事の避難計画に対しても「机上の空論」と批判する意見が根強い。
 だが、有事は日本が起こすものではない。外国に無謀な決断をさせぬことが大事であり、有事に備える姿勢を示すのも、有事に対する重要な抑止力となることを理解しなくてはならない。

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