与那国町から今年度末で常駐の獣医師が不在となる。与那国島では、町天然記念物の与那国馬をはじめ、肉用牛などの家畜が約1600頭(2020年末)飼育されている。今後は、八重山家畜診療所から派遣される獣医師が毎月2回、数日ずつ滞在して診療するという。感染症などには万全の備えをするとしているが、農家の間には「出産や急病への対応はどうする」と不安が広がっている。(山下夏行)
■「崩壊寸前」
18日の与那国町議会。「町の畜産業は崩壊寸前」と迫る議員に、小嶺長典産業振興課長は「無獣医地区になるが、獣医師は月に2回の派遣になる」と答え、新年度からの診療体制を明らかにした。
県農業共済組合によると、これまでは同組合から派遣された常駐の獣医師が診療にあたってきた。1日あたり多い日で、数十頭、少ない日でも10頭ほどの家畜を診察していた。この獣医師は今年度限りで離任が決まったが、後任が確保できず、ドクター・ゼロに。組合は輪番制での対応を決めた。
■死産の恐れ
八重山家畜保健衛生所のデータなどによると、2022年に島内には馬181、牛838、豚8をはじめ、ヤギ、ニワトリなど計約1600頭(羽)が飼育されている。
鳥インフルエンザなどへの対応が懸念されるが、組合側は、牛海綿状脳症(BSE、狂牛病)などの家畜伝染病は八重山家畜保健衛生所の管轄と指摘。担当者は「依頼があれば対応する」とし、通常の病気対応は「農家に電話で指示し、映像を見ながら治療方法を指導する」とオンラインを含めた遠隔診療で臨む考えだ。
■遠隔診療
島で肉用牛を飼育する小嶺博泉さん(52)は「お産対応を農家のみでやる場合も出てくる。最近も死産になったケースがあった。獣医師がいても死産になるのに、農家だけでは対応は無理」と、現実的に難しいと、遠隔診療に懐疑的だ。
さらに、小嶺氏は「家畜の病気を発見することが難しい。体調が悪そうでも、どこに異常があるのか獣医師でないと判断できない」と、懸念する。
ペットと異なり、死産や病気で家畜が死んだ場合には悲しみに加え、経済的損失も伴う。島の基幹産業だけに、影響は計り知れない。
「与那国は孤島で地域医療に奮闘するドラマ、ドクターコトー診療所のロケ地だ。家畜にとっても絶海の孤島で奮闘してくれる獣医師に常駐してほしい」と訴えている。