【視点】存在意義問われる県の米事務所

 沖縄県議会は、県が提案した2025年度一般会計当初予算案約8894億円を審議せず、差し戻す動議案を自民、公明の賛成多数で可決した。議会が当初予算案の審議を拒否するは初めての事態という。
 当初予算案には、地方自治法などに違反した運営が明るみに出た米国ワシントン駐在事務所の活動事業費約3900万円が含まれている。自民の動議では、当初予算案が「違法を前提」にしていると断罪した。
 駐在事務所は米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設反対を米国で発信するという「オール沖縄」県政の政治的な思惑で設置された。これまでも議会で、繰り返し存在意義が問われてきた経緯がある。
 加えて数々の問題が発覚した以上、県は議会の意思を重く受け止め、駐在事務所の活動事業費を削除する修正に応じるべきだ。
 玉城デニー知事は、議会の提案権は首長に専属すると強調し、自公に対し「真摯に対応し、議論を尽くすべきだ」と求めた。自公が予算全体を「人質」に取り、駐在事務所の活動事業費削除を求めていると疑問視した。
 新年度予算案は県政の根幹となる予算案であり、審議の停滞が県民生活に大きな影響を与えることは言うまでもない。問題は審議を停滞させているのは誰かである。
 駐在事務所の違法な運営を巡っては、県議会の百条委員会が調査を進めている。県も自ら調査検証委員会を設置した。辺野古移設反対という政治目的のためなら、違法行為も辞さないと言わんばかりの行政が行われていた可能性が高いことは極めて深刻だ。
 そうした状況の中で、県は駐在事務所の活動事業費を前年度から半減させて計上した。今後の方向性が決まった段階で、残りは補正予算で措置するという。お茶を濁したような対応にしか思えない。県は、ことの重大さを十分に認識していないのではないか。
 昨年の県議選で野党・中立が多数勢力となったことを受け、県政に対する議会の監視機能が格段に強まった。新年度予算案の審議に入れない状況を受け、知事は「このような状態が長引かないことを願う」と述べたが、議会との対立を早期に収拾したいなら、駐在事務所の存続にこだわる姿勢を改めるべきだ。
 県議会がこのまま予算案の審議に応じなくても、玉城知事は専決処分で予算案を成立させることが可能だ。ただ、新年度の当初予算案を専決処分した前例はなく、議会軽視の政治的責任は免れない。
 予算案が審議入りし、自公が駐在事務所の活動事業費を削除する修正案を可決しても、知事は再議権を行使し、修正案の成立を阻止できる。とはいえ少数与党の現状では予算原案成立の見通しは立たない。
 自公が予算案の審議に応じないのは、知事権限も見越し、議会がこの問題を最重要視していることを県政に突き付ける非常手段である。

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