1945年3月26日、石垣島から陸軍特攻第1号として出撃した島出身の伊舍堂用久中佐(当時24、戦死時大尉、二階級特進)の生涯を描く「歴史に葬られた特攻隊長」が3月末に出版された。2024年3月から11月まで八重山日報に連載され、大きな反響を呼んだ作品。沖縄入りした著者のノンフィクション作家、将口泰浩さんにインタビューした。
―どうして伊舍堂中佐を取り上げようと思ったのか。
「産経新聞の元同僚から『石垣島のことを書きませんか』と勧められた。伊舎堂中佐のことは全く知らず、調べ始めてみて『これは長い原稿になる』と思った。2024年2月に石垣島を訪れて取材を始めた。国会図書館で特攻当時の新聞を調べると、朝日新聞、毎日新聞が伊舎堂中佐を大きく取り上げていた」
―伊舍堂中佐の生涯を書き始めて感じたことは。
「一番びっくりしたのは、これほどの人物を誰も知らないこと。地元の石垣島の人すら知らない。石垣から陸軍士官学校に進むこと自体がすごいことなのに、地元から出撃して戦死した。本土の普通の街なら英雄になっている」
「これまでも多くの軍人を取材したが、特攻した愛媛出身の関行男大尉は地元の神社に祀られ、記念館もある。それに比べ、伊舍堂中佐が沖縄で『放置』されていることは驚きだった」
―3月26日は米軍が慶良間諸島に侵攻した日で、伊舎堂中佐が特攻した日でもある。しかし沖縄では、住民の集団自決がクローズアップされ、特攻の事実は忘れられている。この現状をどう思うか。
「特攻も歴史の一部であることは間違いない。美化するのではなく、起きたことは事実として受け止めるべきだ。隠すとか、一方の事実だけを取り上げるのはおかしい。特攻も集団自決も両方取り上げて初めて、歴史の真実が見える」
「外の人から言われて、郷土の偉人の存在に気づくということもある。この本は多くの人に読んでほしいが、特に沖縄の人が『こんな立派な人がいたんだ』と再認識するきっかけになれば」
―伊舍堂中佐はどういう人物だったか。
「故郷思いで、責任感が強く、部下をいたわった軍人。『死ぬことは何とも思わない。祖国日本がどうなるか、それだけが心残りだ』と語った。残された言葉の一つひとつが重い」
「あれほどの人材なら、生きていれば沖縄のリーダー、もしかすると日本のリーダーになっていた。本当にもったいないことをした。戦死した人はみな報われないが、その中でも報われていない人だ」
「歴史に葬られた特攻隊長」は徳間書店刊。198ページ。1700円+税。
将口泰浩(しょうぐち・やすひろ)1963年、福岡県生まれ。産経新聞記者、社会部編集委員を経て2015年に退社。著書に「死闘の沖縄戦 米軍を震え上がらせた陸軍大将牛島満」「人道の将、樋口李一郎と木村昌福 アッツ島とキスカ島の戦い」など。