東西冷戦が西側民主主義諸国の勝利に終わって以来、民主主義は世界の潮流だと思われてきたが、本当にそうだろうか。世界ではむしろ、自由や人権の抑圧に向けた動きが強まりつつあるように見える。
中国の全国人民代表大会(全人代)第3回会議は5月28日、香港に国家安全法制を導入する方針を決定した。同法制導入方針によると、国家の分裂や政権転覆、組織的テロ活動と外国勢力の香港への干渉を処罰するとしており、中央政府の国家安全関連機関が必要に応じて香港に機構を設立することも盛り込んでいる。
「香港民主派の女神」と呼ばれる香港民主派団体メンバーの大学生、周庭(アグネス・チョウ)さんはツイッターで「これは、香港の立法会で審議せず、中国政府が直接香港の法律を制定するということ。デモ活動や国際社会との交流などがこれから違法となる可能性が高い。一国二制度の完全崩壊です」と指摘した。
トランプ大統領は「一国二制度」を前提に香港に与えてきた関税やビザ(査証)の特別優遇措置廃止の手続きを始めると表明。中国の影響力が強いとされる世界保健機構(WHО)からの脱退も表明するなど強硬姿勢を示した。
だが、WHО脱退には同盟国の日本や欧州諸国も含め、現時点で追随する国はない。英国やカナダなどは中国への非難声明だけだし、日本政府は香港情勢について「深く憂慮している」(菅義偉官房長官)などと慎重なコメントにとどまっている。習近平国家主席の国賓訪日で、日中関係を安定化させるのに精いっぱいの状況だ。