ボルトン前米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が出版した回顧録が物議をかもしている。トランプ大統領が日本に対し、防衛費の分担金として年間約80億㌦(約8500億円)の負担を要求し、全ての在日米軍を撤収させると脅して分担金交渉を優位に進めるようボルトン氏に指示したという。
「米国第一主義」を掲げ、米国の利益最大化を図るトランプ氏は、ビジネスマン出身らしく、安全保障政策をも損得勘定で語る傾向がある。回顧録での暴露は、さもありなんと言ったところだ。
だが、米軍基地の過重負担を訴える沖縄の立場とすれば、米国との交渉しだいでは基地の大幅削減も有り得るということであり、逆に大きなチャンスかも知れない。日本の安全保障の在り方を抜本的に問い直す契機でもある。
米側が求める80億㌦は日本が現在、分担している在日米軍の駐留経費負担(思いやり予算)の4倍以上に相当する。回顧録によると、トランプ氏は安倍晋三首相に対し、米国による日本の防衛義務は「公平ではない」と不満を直接伝えていたという。
そうであれば、駐留費の負担増を拒否することで在日米軍を大幅に撤収させ、そのぶん、自衛隊の役割を拡大して抑止力を維持するという選択肢も有り得ることになる。中谷元・元防衛相がBS―TBSの番組で、米軍普天間飛行場の辺野古移設に関して同趣旨の発言をし、辺野古を軍民共用とする可能性にも言及した。沖縄県民の立場からも、十分に合理的な考え方だ。
慣例にとらわれないトランプ氏が相手であれば、日本政府としても、さまざまな選択肢をテーブルに乗せ、柔軟な交渉が可能になりそうな感じだ。
しかし、そのトランプ氏も11月には大統領選を控える。米メディアの報道では、軒並み対立候補となるバイデン前副大統領の優勢が伝えられる。
「バイデン大統領」の誕生が日本の安全保障にどのような影響を及ぼすかに関しては、昨年、石垣市で講演した元陸将の用田和仁氏が「バイデン氏は、中国との連携を模索している。彼が大統領になったら、日本は中国に売り渡されるだろう」と予測した。
バイデン氏が副大統領を務めたオバマ政権時、中国の習近平指導部は、米中が互いに相手を世界で卓越した存在と認め、協調して世界を主導する「新型大国関係」の概念を提唱した。オバマ氏はこれを明確に拒絶していない。
また、バイデン氏は安倍首相の靖国神社参拝に対し「失望した」とする当時の米政府の声明を主導し、歴史認識問題で中韓に寄り添う姿勢を示したとされる。
こうした経緯からすれば「バイデン政権」が対中協調路線へ、大きく軌道修正する可能性は否めない。
ただ、ボルトン氏の回顧録によると、トランプ氏も中国の習近平国家主席に対し、再選への支援を要請したり、香港の民主化デモに「関わりたくない」と話していたという。
事実であればトランプ、バイデン両氏の対中姿勢に、どこまで本質的な差があるのか分からない。
日本は中国との間に尖閣諸島問題など安全保障上の大きな懸念を抱える。だが、いつまでも米国頼みが通用する時代ではなさそうだ。