「歌は世につれ、世は歌につれ」―そんな言葉を体現するように、筒美京平さんは、時代の精神を魅惑的なメロディで切り取る天才だった。「また逢う日まで」「木綿のハンカチーフ」「魅せられて」「スニーカーぶる~す」…送り出したヒット曲は枚挙にいとまがない◆ヒット曲を書くことにこだわり「僕がずっと大切にしてきたのは、ヒットメーカーという呼称」と語っていたという◆普通、ヒット曲で印象に残るのはたいてい歌手の名前だ。だが、いったん作曲家の名前を調べ始めると、時代を代表するほとんどの名曲に筒美さんがクレジットされていることに気づく。生前、ほとんど表舞台に出なかったこともあり、その訃報で改めて存在の大きさを知った人も多いだろう◆そこで「最近のヒット曲は何だろうか」と考えると、言葉に詰まる。全世代が共通して口ずさめるような、国民的ヒット曲が出なくなって久しい。若者は「歌謡曲なんてつまらない」と敬遠し、高齢者は「若者の歌は何を言っているか分からない」と顔をしかめる。日本の歌謡界に、昔日の勢いがないのは確かだ◆それが示すのは、日本文化の枯渇ではないのか。「古き良き時代」を象徴するレジェンドの逝去は、タイミング的にも、そんな不安を増幅させる。 (N)