いかなる文脈にあるかで、言葉の相貌は変わる。愛情を感じる人の「バカ」と憎悪を覚える人の「バカ」とでは、同じバカでも馬と鹿以上の差である◆武漢ウイルスの国産ワクチン開発の遅れに関し、数量政策学者の髙橋洋一氏がネット番組でこう話していた。「ワクチンの技術は軍事技術。ウイルスは兵器。兵器は開発もするが防備も必要で、軍事技術の層が厚いほど早くできる」◆ワクチンで耳にする話題と言えば、その有効性とリスク、接種を希望する・しない、東京五輪に間に合うか等だ。開発遅れの根本原因や構造的問題への追究は、国民の関心の度合いだったり、旧メディアの意図的な操作だったりするのだろう◆「ABC兵器」という言葉がある。核(アトミック)、生物(バイオロジカル)、化学(ケミカル)の頭文字をとった3兵器の総称である。Aは原子爆弾・水素爆弾、Bは昆虫・細菌・ウイルス、Cは毒ガス・枯葉剤などで、軍事の世界では常識的な言葉のようだ◆日本で「軍事」がよく用いられる文脈はと言えば「過去の過ち」(傲慢)、「戦争の悲劇」(思考停止)、「研究の禁忌」(論外)ぐらいのものか。異なる文脈が言葉の相貌を豊かにする。その豊かさが、想像力の幅や思考の広さにも繋がっているのだが。 (S)