それよると、住民投票が必要になる重要な意思決定については「議会で十分に議論がなされる必要がある」「少数意見の取り扱いなどに慎重を期する必要があること、あるいは事案ごとに検討すべき点も多い」という考えから、案件ごとに議会の議決を経て条例を制定する「個別型の条例とする」ことにしたという。
有権者の4分の1以上の署名で市長に住民投票実施を義務づける条文は、その後の議論で追加された。だから、市が当初想定した住民投票制度とは整合性がない。
しかも市長が取るべき「所定の手続き」が「個別型」であれば当然必要な、議会への住民投票条例提案であることを明記しなかった。このため、のちに「市長は議会の議決なしでも住民投票を実施すべき」との解釈が生まれた。
この結果、同条例の住民投票制度は「個別型」「常設型」の矛盾する要素をまぜこぜにした不明瞭なものとなり、制度設計に大きな欠陥を残した。しかし当時の市は問題意識を持たないまま条例制定に至っており、それが現在の裁判闘争につながっている。
だからと言って野党などが主張するように、住民投票制度を残したまま条文を追加し「常設型」の制度に改正することで問題が片付くわけではない。
住民投票のテーマは本来、市町村合併の是非とか、市役所の位置とか、地域で完結できる問題に限られる。自衛隊配備のように国の防衛や外交にかかわる問題は「そもそも一自治体の住民投票になじむのか」という疑問の声が根強く、デリケートな判断が必要である。
有権者の一定数の署名さえあれば、議会の議決なしに、どのようなテーマでも住民投票に持ち込めるという考え方には、やはり慎重にならざるを得ない。
有権者が住民投票条例の制定を請求する権利は、地方自治法で保証されている。改正前条例の住民投票制度は屋上屋を架そうとするものであり、だからこそ大きな混乱を招いた。まずはその反省から、住民投票制度のあり方を考えなくてはならない。