「井戸を掘った人の恩を忘れるな」とよく聞く。政治家として沖縄・八重山振興に多大な功績を残した故・山中貞則氏の生誕百年を記念する催しが9日、石垣市で開かれたのは、先人への感謝を大切にする八重山住民の心意気を示したものだ◆鹿児島県出身で戦争体験者の山中氏は、自らが沖縄県民の犠牲と引き換えに生き延びたと考え、薩摩藩による琉球侵攻の歴史にも罪悪感を抱いた。沖縄への贖罪(しょくざい)の念に駆られ、選挙区でもない沖縄のため、閣僚、自民党重鎮として県民生活向上に尽力した◆かつては戦争の記憶を持つ多くの政治家が、沖縄に万感の思いを寄せていた。復帰後の発展を支えた沖縄振興計画は、こうした政治家たちの努力の結晶だ◆しかし戦後70年余を経て、沖縄を特別視する政治家が徐々に見当たらなくなってきたのも事実である。竹富町の西大舛高旬町長が「先生がいない今、存在の偉大さをしみじみと感じる」と語ったのは、そうした県民の寂しさを代弁している◆国民の世代交代が進めば、いつまでも歴史を引き合いに補助金を要求するような態度は通用しなくなる。おりしも県は、新たな沖縄振興計画を策定中だ。「自立」。これこそ山中氏ら、今は亡き沖縄の理解者たちに対する何よりの報恩だろう。