中国空母「遼寧」などの艦隊が沖縄周辺を10日以上航行し、艦載戦闘機やヘリの発着艦を繰り返している。台湾有事を想定した訓練とも言われるが、一時は石垣島の南約150㌔の距離まで接近した。台湾だけでなく沖縄への軍事的威圧と受け止めざるを得ない。
時を同じくして石垣島北方の尖閣諸島周辺では、中国海警局の艦船が石垣島から出漁した漁船を30時間以上も追尾し、漁を妨害するような動きを見せた。沖縄の復帰記念日前日の14日には、艦船4隻が領海に侵入した。復帰記念日に対する、彼らなりの「祝福」なのだろうか。
沖縄周辺で中国はやりたい放題の状況であり、危機は加速している。
空母は「専守防衛」の装備ではない。戦闘機を搭載して航行し、遠距離にある敵国を攻撃するために使われる。沖縄にとっては、周辺を空母が航行するだけで迷惑極まりない。しかも中国軍は空母を含む艦隊の動向について「実戦訓練」を行ったと発表した。
石垣島と沖縄本島の距離が約400㌔、尖閣諸島までの距離が約170㌔であることを考えると、中国空母が展開した海域が、いかに石垣島に接近しているかが分かる。「遼寧」が日本にこれほど近づくのも初めてのことだ。
中国が石垣島と目の鼻の先で「実戦訓練」を繰り返す意図は何なのか。確かなのは、平和を希求する県民の思いが愚弄されているということだ。
尖閣諸島を行政区域に抱える石垣市は緊張緩和を目指し、自治体レベルで中国との交流を模索したことがあったが、中国側からは何の反応もなかった。
「沖縄を平和の緩衝地帯にする」とは翁長雄志前知事がよく使っていた言葉だが、中国はそもそも、対話より実力行使を優先させる国であることが明らかである。沖縄が実際にそのようなことを提案しても、受け入れるはずがない。
中国の動きから、もう一つ明確に分かることがある。ロシアがウクライナ侵攻で国際的な非難を浴びている状況から何一つ学んでいないということだ。
沖縄に対する軍事的威圧、尖閣諸島の侵奪に向けた動きは確信犯的なものであり、今後もエスカレートする可能性が危惧される。沖縄は当事者である。
復帰50年記念式典の沖縄会場に出席した岸田文雄首相は「日米同盟の抑止力を維持しながら、負担軽減の目に見える成果を着実に積み上げる」と強調した。現下の国際情勢を考えれば当然の発言だ。
玉城デニー知事は「沖縄は過重な基地負担を強いられ続けている」と述べ、米軍普天間飛行場の辺野古移設反対などを盛り込んだ「建議書」に言及。「県民が渇望し続けている沖縄の本土復帰の意義と恒久平和の重要性」について語った。
基地がない沖縄がイコール平和を意味するわけではない。県民の生命や財産を守るにはどうすればいいかという問題意識において、首相は将来を、知事は過去を見ている。両者の視点の差は歴然としている。
15日の県紙2紙には辺野古移設に反対する市民グループが「基地のない平和な沖縄そして日本へ」と訴える2ページの意見広告を出した。「武力で平和はつくれません」「沖縄に基地負担を強いる『この国のあり方』の根にある日米安保条約を変えよう」などと主張し、辺野古移設だけでなく、自衛隊配備も戦争につながると批判した。
この意見広告を見ていると、50年間、時が止まったままのような錯覚を感じる。時代錯誤という意味である。