日米共同統合演習「キーンソード23」(10日~19日)の一環として、陸上自衛隊与那国駐屯地でも日米部隊間の連絡調整所設置訓練と、航空自衛隊輸送機による装備品輸送訓練が行われる。与那国駐屯地を米軍が使用するのは2016年の駐屯地開設以来、初めてとなる。
与那国島は日本最西端の島であり、台湾との距離は約110㌔しかない。中国は習近平政権が3期目に入り、台湾への軍事的圧力を強化する姿勢を示している。
与那国島で行われる初の日米共同統合演習が、台湾有事を意識したものである可能性は高い。日米が不測の事態に備え、連携を強化する意義は大きい。
ただ住民からは「米軍の参加が地域の緊張を高める」などと批判する声もある。米軍の訓練というと沖縄本島で実施されている実弾演習のようなものをイメージし、不安を抱く住民もいるかも知れない。
今回の訓練には米海兵隊員人が参加するというが、防衛省の公表資料によると訓練の実施場所は駐屯地内であり、住民生活に直接的な影響が及ぶ可能性は考えにくい。
防衛省など関係機関は、島の安全を守るために不可欠な訓練であることを丁寧に説明し、住民生活への影響を最小限に抑えた上で、トラブルがないよう訓練を遂行してほしい。
南シナ海や尖閣諸島周辺海域では、中国が周辺国の主張を無視し、軍艦などを派遣して権益の拡大を図っている。日米共同統合演習では、自衛隊と米軍が「力による一方的な現状変更の試みは断じて許さないという強い意志のもと、あらゆる事態に対応するための抑止力・対処力を強化」するとうたう。
今回は全国の自衛隊施設、在日米軍施設などで水陸両用作戦、陸上作戦、海上作戦、航空作戦、統合後方補給など、幅広い項目の訓練を計画している。
抑止力というのは侵略を計画する相手国に対し、計画を実行すれば圧倒的な反撃に遭うことを事前に示し、相手国の意図をくじく力だ。その意味で日米共同統合演習は、日米の連携を「見せる」ことが主要目的の一つであり「地域の緊張をあおる」という批判は当たらない。
ただ沖縄には強い反米軍基地感情もあり、与那国島で米軍が参加する訓練が実施されることは、県内でも大きく報じられた。訓練の際に住民の理解を得ることは常に大きな課題となる。
他国の軍隊である米軍を警戒する声は依然として根強い。だが一方で、日本の法律のもとに運用されている自衛隊に対する信頼は、沖縄でも厚い。
来春には石垣島でも陸上自衛隊駐屯地が開設される。自衛隊が存在感を高め「米軍頼み」だけでない防衛体制を確立することが、県民の不安と向き合う道でもある。