【視点】「沖縄ヘイト」は存在しない

 県議会は2月定例会最終本会議で「差別のない社会づくり条例」を賛成多数で可決した。人種や出身国などを理由とした差別的言動である「ヘイトスピーチ」を防止するための条例だ。
 条例では県に対し、差別解消のため施策を講じるべきことを定めた。だが条例に野党から反対者が出たのは、条例が定義するヘイトの一種として「県民であることを理由とする不当な差別的言動」という条文が盛り込まれたためだ。いわゆる「沖縄ヘイト」である。
 だが「沖縄ヘイト」とは、県民自身から見ても曖昧であり、何かと疑問が多い概念だ。
 インターネットを覗くと、沖縄に対するさまざまな罵詈雑言が見つかることがある。しかし、そのすべてが「ヘイト」というわけではない。
 「沖縄ヘイト」の具体例としてよく引き合いに出されるのは、県外から沖縄に派遣された機動隊員が抗議する基地反対派に「土人」と言い放ったケースだ。だが、これが目の前にいる個人への単なる罵声なのか、県民全体に対する侮蔑、さらには外国人排斥運動と同列の「ヘイト」なのか、直ちには判断できない。
 「沖縄出身であることを理由とした不当な差別」と言うのなら、それは復帰ごろまで厳然として存在した。
 東京には堂々と「沖縄人お断り」と掲げた居酒屋があったし、上京した県出身者は、当時の沖縄が米軍統治下だったことから「日本語が話せるのか」とからかわれたりした。
 沖縄の中でも、離島出身者は本島出身者より一段低く扱われ、就職や結婚で差別を受けた。こうした事例は、現代であればれっきとした「ヘイト」に該当する可能性が高いだろう。県民として、決して忘れてはならない苦難の歴史である。
 だが現在「沖縄ヘイト」という言葉は、多くが基地反対運動の中で使われている。基地反対派が、自らを批判する本土の人たちに向ける言葉である。
 「反・反基地」の言動の中には「反日」「民度が低い」「中国のスパイ」など、広く県民一般を中傷するような表現も確かに見られる。基地問題で「沖縄は差別されている」というロジックを構築している基地反対派としては「沖縄ヘイト」という言葉で、あらゆる批判を封殺したいのかも知れない。
 だが一見、県民全体に対する差別的な発言のように見えても、趣旨としては基地問題に関する政治的な発言であることも多い。それを「ヘイト」と呼び、人種差別の問題と同列に捉えていいのか。本来、差別とは全く次元の違う話ではないか。
 現在の日本で、県民が「沖縄出身だから」という理由で不当な差別を受けるという事例は、まず見当たらないだろう。基地反対派に対する罵倒のたぐいをいちいち「沖縄ヘイト」と呼ぶなら、それは過去に実在した沖縄差別の歴史を、矮小化することにつながりかねない。
 本来は存在しない差別を、政治的な思惑であたかも存在するようにアピールするのは、沖縄自身のためにならない。条例に反対した野党・自民党の県議が「玉城県政が自ら差別を顕在化」させたと発言したのは、そういう趣旨だろう。
 われわれ沖縄県民として確認すべきは「沖縄ヘイト」は存在しないということだ。条例には罰則規定はなく、一部の識者から実効性を疑問視する声も出ているが、存在しないヘイトに罰則を設けることなど、そもそも不可能である。
 あらゆる不当な差別を解消するため、せっかく成立した条例だ。おかしな方向に運用されることがないよう、県民自身が絶えず監視しなくてはならない。

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