「2023年7月5日が運命の分かれ道だった」。後世、そんな歴史的評価を受けることにならないよう願うばかりだ。玉城デニー知事が訪中し、中国ナンバー2の李強首相と面談を果たしたその日、台湾から首里城再建に向けて、建材として台湾紅ヒノキが提供されることになっていた。ところが、台湾側からの連絡で式典は中止になった。▼台湾ヒノキは光沢と芳香が特徴。2020年3月の関係閣僚会議作成の「首里城正殿等の復元に向けた工程表」には、前回復元時に台湾ヒノキが使用された経緯をふまえ、「調達可能であればタイワンヒノキを使用すること含めて、引き続き市場調査を行う」とある。希少な建材を逃したのは残念だ。だが、建材の話にとどまらない。沖縄はもっと大きなものを失ったのではないか▼提供中止の理由は不明。玉城氏の中国重視の言動と無関係ではないとの憶測を呼ぶ。習近平国家主席の琉球と中国の歴史に触れる発言が報じられて以降、連日のように中国側から沖縄の歴史を遡るニュースが発信されている。中国共産党機関紙、人民日報傘下の雑誌、国家人文歴史は「現在の琉球は日本の実効支配下にあるが、歴史上、琉球の主権が日本に属すと定めた国際条約はない」とまで指摘したそうだ▼中国メディアの報道は、「台湾有事は日本有事」と日本が台湾問題に関与することを牽制するため、沖縄の帰属を持ち出して揺さぶっているという見方が一般的だ。さらには習主席が掲げる「運命共同体」組織に沖縄から取り込む展望があるのかもしれない。ヒノキについて玉城氏を批判する声は聞こえてこない。まるで世論の分断工作の教科書を読まされているようだ。