政府の「領土・主権をめぐる内外発信に関する有識者懇談会」は7月29日、尖閣諸島、竹島、北方領土の領有権に関する発信を強化するための提言をまとめた。沖縄は尖閣諸島を行政区域に抱えているが、県民の領土意識が特に高いとは感じられず、とりわけ沖縄本島で尖閣諸島は米軍基地問題の陰に隠れている感すらある。中国公船が領海侵入を常態化させている現状も含め、県民にきちんと情報が行き渡っているか疑問だ。
県政から発信される情報も常に米軍基地問題が中心で、領土に関する発信ははなはだ弱い。玉城デニー知事は記者会見で、尖閣諸島海域の現状を問われ「中国公船がパトロールしているので、故意に刺激するようなことは控えなければならない」と発言し、のちに撤回に追い込まれた。県政トップにしても、この程度の認識しか持っていないのである。
石垣市は尖閣諸島で港湾施設や気象観測施設などを整備するよう国に訴え、周辺海域での漁業活性化を求めている。尖閣周辺の資源は将来、国境の島々の離島振興に大きな力を発揮するはずだ。
政府は対中関係を考慮して尖閣諸島の現状を変更することには消極的だが、石垣市の要望は、時期はともかく、いずれは必ず着手しなくてはならない国民的課題である。だが、それも県政をはじめ、県民の後押しがなくてはどうにもならない。沖縄本島の住民に対し、尖閣諸島問題の重要性をいかに浸透させるか、工夫が必要だ。
尖閣周辺海域では、中国公船が事実上の常駐体制になり、日本の巡視船との緊張関係がさらに増している。竹島では日韓関係の悪化を受け、韓国による大規模な軍事演習などの動きがあるが、それ以前に韓国では、児童に対する領土教育が低学年から徹底しているという。
北方領土問題に関しては返還交渉に前進が見られず、かえってロシアが実効支配の強化を誇示している現状だ。
平和を願う沖縄の心とは裏腹に、大陸側の国々からの圧迫はむしろ強まっている。県民や国民が領土意識を強めることは、現実を直視する意識を養うことでもある。
有識者懇の提言では国内の啓発活動について、学校での領土教育の充実、領土に関する意識が相対的に低い20代、30代に重点を置いた発信の強化などを課題に挙げた。
ただ学校教育は、教える教員自身が領土問題に高い関心を持っていることが求められる。沖縄では戦争の悲惨さを強調する平和教育が盛んな一方、隣国との摩擦の原因となる領土教育に関しては敬遠される傾向があるように見える。教員にしっかりと自覚を持ってもらうことが必要だ。
領土教育に関し、提言では「日本の主張の押し付けと受け取られたり、あるいは、中国および韓国に対する嫌悪感だけを生んだりすることがないよう配慮すべき」と求めた。冷静にしっかりと事実を説明すれば、子どもたちに対し、いたずらに他国との対立を煽るようなことはない。対外発信に関しては日本の主張の説得力を高めるために、中国や韓国の主張に対するより効果的な反論の必要性を強調した。
政府は2012年度に領土・主権対策企画調整室を設置し、このところは毎年、尖閣や竹島に関する資料調査事業の報告書をまとめている。こうした資料をより多くの県民に知ってもらうことも大事だ。