米海軍の掃海艦「パイオニア」が7日、石垣港に寄港したのは、拡張主義的な動きを強める中国に対し、最前線である八重山で日米の連携をアピールする狙いがあると見られる。「台湾有事をにらんだ寄港か」と報道陣から問われたチェイス・ハーディング艦長は「特定のケースは想定していない」と述べる一方、日米同盟を強化し、インド太平洋地域の平和を守る責務を示す寄港だと言明した。
▽ホットスポット
八重山は近年、対中をにらんだ「ホットスポット」になりつつある。台湾は与那国島から約111㌔の距離にあり、台湾有事が勃発した場合、何らかの影響を受けるのは必至だ。
石垣島から約170㌔の尖閣諸島は石垣市の行政区域だが、周辺海域に中国海警局の艦船が常駐し、領海侵入や日本漁船への威嚇を常態化させている。
ハーディング艦長は石垣寄港の目的について「通常から、できるだけ多くの港を使用する訓練をしている」と説明。米側としては寄港の実績を作ることで、有事の際、日本側と連携し、八重山の港湾使用をスムーズに進めたい思惑がありそうだ。
今年3月に石垣島で陸上自衛隊駐屯地が開設されたことも、寄港を決めた理由の一つになった可能性がある。
▽友好的な雰囲気
ただ、米艦船の石垣寄港は2009年以来途絶えてきた。当時は革新市政で、反対運動に勢いがあり、寄港に抗議する労組や平和団体の関係者が石垣港に殺到。乗組員らの上陸を実力で阻止しようとし、現場が大混乱に陥った「苦い経験」がある。
当時の教訓を生かしたのか、市は今回の寄港を前に、民間業者に委託し、クルーズバース前にフェンスを設置。反対派が岸壁に近づけないようにした。
また、ハーディング艦長は報道陣の質問に対し「パイオニア」 について「スモールシップ(小さい船)」「防衛的な任務」と繰り返した。
規模的に小さく、機雷除去を主任務とする艦船であると強調することで、地元の反発に配慮したものと見られる。地元メディアを対象に艦内の公開にも踏み切り、友好的な雰囲気づくりに腐心した。
▽勢い失う抗議活動
09年に比べると、寄港に対する抗議活動の規模は目立って縮小し、勢いを失った。寄港を容認する保守市政に転換したことに加え、住民が中国の脅威を肌で感じるようになり、抗議活動への共感が広がっていないためだ。
7日も港湾周辺では抗議活動による目立った混乱はなく、当初懸念された市民生活への影響も出ていない。
しかし、自衛艦の寄港に比べると、米艦船の寄港に対しては、現在も住民感情のハードルは高い。日米地位協定を理由に寄港を容認する中山義隆市長だが、公の場で寄港を歓迎するような発言は慎重に避ける。
民間の港湾や空港であっても、有事を想定した場合、米軍による使用が必要になるケースは当然ある。しかし離島防衛はあくまで自衛隊が主体であり、米軍は補助的な役割に限定される―という原則に沿った運用が求められる。