【視点】沖縄の危機こそ訴えるべきだ

 玉城デニー知事は17日、スイス・ジュネーブの国連人権理事会に出席するため、沖縄から出発した。同理事会で18日にも演説し、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設反対を訴える。だが今、沖縄から広く、国際社会に発信すべきは、本来は国内で解決すべき米軍基地問題ではない。
 中国が石垣市の尖閣諸島周辺に侵入し、市民に不安に陥れている問題や、台湾有事に対する県民の懸念こそ訴えるべきだ。それが沖縄にとって「今そこにある危機」だからだ。特に離島住民にとっては、知事の行動には違和感しかない。
 国連人権理事会で沖縄県の知事が演説するのは、2015年の翁長雄志前知事以来、8年ぶりだ。当時、翁長氏は「沖縄の人々は自己決定権や人権をないがしろにされている」と発言した。基地問題で、沖縄県民が日本政府に弾圧されているというイメージを国際社会に流布する狙いが明白だった。
 だが、その結果はどうだっただろうか。沖縄と本土の分断を助長し、相互の不信感を増幅させただけだったのではないか。そして辺野古移設は止まらなかった。
 あれから8年経ち、玉城知事が翁長氏の誤った路線を無反省のまま継承しようとしていることに驚きを禁じ得ない。あえて言うなら、支援者に対し翁長氏の後継者であることを改めてアピールし、支持基盤の強化を図ろうと考えているのかも知れない。
 だがそれは、玉城知事やその支持者にとっての利益でしかない。玉城知事が今さら国連で演説に臨むことが、県益にも国益にもならないことは明らかだ。
 しかも8年前に比べ、沖縄を取り巻く国際環境は一層厳しさを増している。中国が尖閣諸島問題でさらに攻勢を強め、海警局船を使って日本の漁業者を尖閣周辺の漁場から締め出そうとしているのは周知の通りだ。
 中国は台湾に対する軍事的圧力も格段に強化している。台湾有事が勃発すれば、八重山にも何らかの影響は必至だ。
 沖縄の代表である知事が国際社会に求めるべきは、民主主義国が連帯して中国の侵略的行動を即刻やめさせること、県民の平穏な生活を今後とも守り抜くことだ。
 玉城知事は辺野古移設問題について、日本政府に対し「対話で解決してほしい」と繰り返し要望してきた。しかしその一方で、工事を阻止するために政府を提訴し、さらに今回は国連にまで出向いて、政府を批判しようとしている。対話の気運をつぶしているのは知事自身ではないのか。
 知事の演説に先立ち、自民党は「発言は冷静かつ平穏なものにしてほしい」とくぎを刺した。知事の演説が中国に対する誤ったメッセージになる可能性も懸念した。
 沖縄の知事が演説で尖閣や台湾の問題に触れないことだけでも「沖縄はくみしやすい」という認識を中国に与えかねない。いずれにせよ、翁長氏のような発言は慎むべきである。
 翁長氏の「負の遺産」を忠実に引き継ぎ、二重三重に誤りを重ねるのは、県民を不幸にするだけだ。知事はその点に十分留意してほしい。

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