【やいまぴとぅここにあり⑥】笑わせる門には福来たる ヒーリングライター 米盛智恵子さん(70)

「やいまぴとぅ」を癒し文字にした作品を手にする米盛さん=那覇市

 笑わせる門には福来たる―。見ているだけで心が和らぐ「癒やし文字」を人々に届けるヒーリングライターとして、那覇市を拠点に活動している。優しく微笑みかけるような筆文字や、マイナスの感情をプラスに変える独特の言葉を書いた色紙、書籍、カレンダー、はがきなどを20年ほど前から制作。「癒やし文字」で書かれた自分の名前を見ると、つられて笑ってしまう人が多いが、悩みを抱えている人の中には「自分の名前に『頑張れ』と励まされているような気がする」と号泣する人もいるという。

 1953年、石垣市登野城生まれ。会社員の家庭で、4人きょうだいの次女として育った。命名してくれた祖父から「智恵がある子に育ってほしい」と繰り返し聞かされ、幼いころから「将来は先生になって、弱い子を輝かせてあげたい」と願い続けてきた。登野城小、二中、八重高を卒業後、琉球大教育学部に進学し、教員を目指した。
 在学中、同じ石垣市の白保出身で、二つ年上の警察官、重仙(しげのり)さんと出会い、結婚。出産で休学したこともあり、大学は卒業したが教員にはならず、主婦業のかたわら、保険会社のセールスレディ、塾経営、エステサロン経営など、さまざまな業種を経験した。4人の子どもも育て上げた。仕事と家庭を両立する中で、人との接し方、物事を前向きに考える秘訣などの人生訓を学び取った。
 40代後半のころ、仕事で知り合った人たちから、明るく面倒見のいい性格を慕われ「良かっ種(たね)の会」という10人ほどのサークルを結成。自分の経験をもとに、仲間に生き方のアドバイスするようになった。仲間とのやりとりの中で「マイナスの意味を持つ方言も、当て字を使えばプラスに変えられる」と気づき、そうした数々の言葉を2003年、書籍「風楽風遊(フラ―フユ―)」にまとめた。
 書籍の表題は「ばかで怠け者」という意味。「風」「楽」「遊」という文字を当てるだけで、風雅でゆったりと生きる人のイメージに変わる。
 やなわらばー。「嫌な子ども」という意味。「家内笑場」と書けば「家の中を笑い場にする、わが家の『宝者』」。
 ひじゅるー。「冷たい人」という意味。「陽知流」と書けば「冷たいように見えても、いざという時は太陽のように温かい知恵を流してくれる」
 びーちゃー。「酔っ払い」という意味。「美意知家」と書けば「酔うことにはそれなりの美しい意味があることを、私は知っている」
 なぜ言葉にこだわるのか。「私は大人のちょっとした言葉で傷つくような、感受性の強い子だった。だから言葉を大切だと知っていた」と力を込める。
 どんなに角張ったり、丸まったりしていても、どこかに笑顔が潜んでいる「癒やし文字」も創造した。
 「母は笑子という名前だったが、いつも苦労していて笑わなかった。そんな母を笑わせたい、という思いが癒やし文字の原点になったんでしょうね」。
 東京電機大学の町好雄教授の実験で「癒やし文字」を見た人の脳から人体をリラックスさせるアルファ波が出ることが確認されたという。
 出版を機にメディアへの出演、講演、カルチャー教室の講師、展示会開催、CDジャケット制作など活動の幅が広がり、依頼を受けて創作するようになった。
 人の名前を聞くと、その場で「癒やし文字」として描き、色紙にする。色紙を渡されると、笑う人あり、泣く人あり。文字には人の心を動かす力があると改めて実感した。「人を明るく爽(さわ)やかにするにはどうすればいいか、いつも考える」という米盛さんの人格が「癒やし文字」に投影されている。
 2010年には自宅を改装し「癒やし文字ギャラリー」をオープン。自らの作品に囲まれながら暮らし、創作にも没頭している。
 晩年を迎えた笑子さんを自宅に引き取り、笑わなかった母にも笑顔が戻った。他界する直前、笑子さんは「いい名前をもらったね。智恵子という名前の通りになったね」と、しみじみ語りかけてきた。母の言葉に、涙があふれた。
 癒やし文字、言葉、名前。三つの素材を自在に生かしながら「智恵の光を太陽のように発信していきたい」と決心している。作品を通じ、世界に笑顔を広げる。(仲新城誠)

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