【視点】辺野古 多様な声に耳傾けよ

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設工事で、沖縄防衛局は軟弱地盤がある大浦湾側の埋め立てに着手した。普天間飛行場の早期撤去は宜野湾市民のみならず県民全体の総意でもある。移設完了は早くても2030年代半ば以降とされるが、政府は工法の工夫などでスピードアップに努め、できるだけ早期の基地負担軽減に向けて努力してほしい。
 玉城デニー知事は10日の記者会見で、大浦湾側の工事着手について「丁寧な説明とは真逆の極めて乱暴で粗雑な対応」と批判した。
 だが、政府は玉城知事が起こした裁判で勝訴し、最高裁判決を踏まえ、法に沿った代執行の手続きで工事を進めている。これを「乱暴」「粗雑」と言われては防衛局も立つ瀬がない。
 むしろ行政の長でありながら自説の主張に固執し、最高裁判決に従おうとしない知事の姿勢こそ、法治国家や民主主義のルールを無視するものだ。
 知事は記者会見で「(県民は)辺野古新基地建設に反対だという民意を明確に示している」と述べた。沖縄の全県規模の選挙では、辺野古移設に反対する候補者が連勝していることは事実だ。
 だが県内の政治状況を見ると、普天間飛行場を抱える宜野湾市長は移設を容認しており、辺野古を抱える名護市長は移設の賛否を明示していない。自民党県連は、明確な移設容認にかじを切った。さらに県内11市の市長は、ほとんどが玉城知事と対立している。
 保守も革新も「オール沖縄」で辺野古移設に反対しているという実態は、もはや沖縄にはない。辺野古を巡っては「県民の意思は容認と反対に大きく分断されている」というのが正確な状況だろう。知事や基地反対派が言うように、沖縄が移設反対で一色に塗りつぶされているということはない。
 普天間飛行場の移設先が県内であろうが県外であろうが、ともかくも基地を現在の場所から一日も早く撤去してほしいと願い、苦渋の選択で辺野古移設を容認している県民も少なくない。だが先の見通しもなく辺野古反対に固執する知事の言動からは、移設を容認する県民への配慮が感じられない。
 それどころか「基地の県内移設では負担軽減にならない」という独自の論理のもと「民意」という言葉を振りかざし、少数派の声を圧殺しているようにさえ見える。県は基地反対派の意見だけでなく、多様な県民の声に耳を傾けるべきだ。
 普天間返還合意をまとめた自民党政権だけでなく、旧民主党政権も含め、普天間飛行場の撤去は「辺野古移設が唯一の選択肢」とするのが日米両政府の一貫した姿勢である。
 知事が主張するように、辺野古移設を今から空中分解させたとしても、あとに何が残るのか。それこそ普天間飛行場の固定化ではないか。県政の責任者として、知事はそのことをよく考える必要がある。
 知事や「オール沖縄」県政を支える政治家たちが「民意」という言葉を都合よく使っているのではないかという疑念もある。
 政府が石垣市や与那国町の空港、港湾を「特定重要拠点」に位置付けて整備し、自衛隊や海上保安庁の利用を円滑化させる構想がある。
 地元の石垣市、与那国町は特定重要拠点の枠組みで空港の滑走路延長などを実現するよう要請しているが、県は空港、港湾の軍事利用を懸念し、同意していない。
 辺野古移設問題で「民意」を強調しながら、自らは離島の「民意」に向き合っていない現状だ。ダブルスタンダードではないか。
 玉城知事は記者会見で、辺野古移設を巡り防衛相との面会が実現していないことについて「防衛相は県庁に直接来訪せずに、たとえば県内の離島に赴いて(市長や町長と)面談するという手続きも取られている。その過程で県庁にお越しいただく時間も取れたのではないか」と発言した。
 玉城知事自身は就任後、八重山の離島をほとんど訪れていない。「離島に行けるのに本島に行けないはずがない」と言わんばかりの離島軽視の感覚に呆れてしまう。知事や「オール沖縄」の政治家は離島振興を何だと思っているのだろうか。
 知事の責務は県民生活の向上と福祉増進、基地負担の軽減である。だが県自身が反基地活動の機関のようになってしまっては、県民生活全般にしわ寄せがくる。
 「オール沖縄」県政の10年は、そのことを如実に示していると言えよう。

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