【解説】「オール離島」の気運醸成必要 沖縄県の消極姿勢、一層鮮明 特定重要拠点

 離島5市町が空港の機能強化を玉城デニー知事に初めて直訴した。しかし県は空港整備の費用対効果や、特定重要拠点として整備されれば「有事の際に攻撃対象になる」との懸念があるという従来の見解を繰り返し、前向きな姿勢を見せなかった。5市町が今後、特定重要拠点指定の同意を県から引き出すには、離島住民の「民意」を訴える必要がある。だが指定に対しては5市町の間でも温度差があり、住民の間でも賛否が割れている。「オール離島」で経済界なども含めた気運醸成をどこまで図れるかが課題になりそうだ。
 5市町のうち、空港の機能強化実現に最も熱意を示しているのが石垣市の中山義隆市長と与那国町の糸数健一町長。中山市長は自身の市長選公約でも空港の滑走路延長を掲げており、欧米からの直航便誘致に向けて空港機能の強化は不可欠と力説する。
 日本最西端の与那国町は台湾に近く、有事を見据えた住民避難のインフラ整備は焦眉の急。糸数町長は町の活性化のためにも、特定重要拠点の指定は「千載一遇のチャンス」と期待する。
 一方、竹富町の前泊正人町長は、町民から自衛隊の波照間空港利用を懸念する声が上がっていることを受け、これまで特定重要拠点に対する態度を明確にしてこなかった。
 関係者によると、宮古島市では現時点で空港機能の強化は政治課題に挙がっておらず、これまで市としての主体的な動きはない。特定重要拠点の制度に対する市民の関心も薄いという。座喜味一幸市長が玉城知事の支援を受けて当選したことも、市の立場を微妙にしているという見方がある。
 思惑が異なる5市町の取りまとめに動いたのは中山市長で、経済振興や住民保護の観点から空港機能の強化は必要という合意を全首長から取り付けた。
 5市町の要請は当初、副知事が対応する予定だったが、中山市長は知事が対応しないことに公然と不満を表明。土壇場で玉城知事を要請の場へ引きずり出すことに成功した。
 しかし石垣市の中でも、現状では空港機能の強化に全市民的な合意が形成されているとは言い難い。革新系の野党は特定重要拠点の指定に反対。市議会では滑走路延長の必要性そのものを疑問視する声が上がり、県に対する意見書も、野党の反対で全会一致にはならなかった。
 こうした市町間や住民の足並みの乱れが今後、空港機能の強化に腰が重い県の「口実」として利用される可能性もある。
 玉城知事は29日、5市町の要請に対し、空港機能の強化が沖縄振興予算に悪影響を与える恐れがあるとの懸念も表明した。
 従来の費用対効果などの問題に加え、特定重要拠点の指定に同意できない理由を新たに持ち出してきた形で、県の消極姿勢が一層鮮明になった。玉城県政の方針を転換させるのは容易ではないとみられる。
 5市町が空港機能の強化をあくまで求めるのであれば、今後、各自治体が官民一体で継続的にアピールする態勢を構築できるかカギになりそうだ。(仲新城誠)

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