尖閣諸島(石垣市)周辺の日本両空港を飛行する自衛隊機に対し、中国海警局の艦船が無線で退去要求を始めた、と共同通信が報じた。自衛隊機が中国の「領空」を侵犯したとみなす行為であり、中国の尖閣侵奪に向けた新たな動きと言える。八重山住民や沖縄県民も含め、中国が徐々に間合いを詰めていることを認識し、危機感を持って事態を注視すべきだ。
中国政府は尖閣周辺に中国海警局の艦船を常駐させ、周辺で操業する日本漁船を威嚇するなど、日本の実効支配打破を目指した動きを強めている。中国の新たな動きは、習近平国家主席の指示が反映されているとの見方もある。
海警局艦船が尖閣周辺の接続水域を航行した日数は昨年、352日に達した。台風や荒天などの事情がない限り、海警局艦船が姿を消すことはない。尖閣諸島が日本固有の領土であり、石垣市の行政区域であることを考えると、日本領の島々に対する外国の不当な干渉が恒常化している現状は異常である。
海上保安庁の巡視船が連日、海警局艦船と対峙し、日本漁船の安全を確保しており、日本の実効支配はギリギリの線で維持されている。
ただ、尖閣周辺で操業する日本漁船が増えると、海警局も艦船を増派して対応する。尖閣周辺に常駐している艦船の背後にも、かなりの艦船が存在し、状況に応じて日本領海に侵入する体制を整えていると見るべきだ。
日本の安全保障体制にほころびが生じれば、中国艦船があっという間に尖閣周辺に殺到し、そのまま島々を占領してしまう事態も想定しなくてはならない。それが台湾有事と連動する可能性もある。一般の国民が考えている以上に事態は深刻化し、切迫していると覚悟すべきだろう。
中国はなぜ尖閣や台湾にこだわるのか。習主席が掲げる「中華民族の偉大な復興」を誰の目にも分かるよう具現化する手段が、中国領土の拡大だからだろう。
中国指導部の言動からは、米国に並ぶ覇権国家に成長することで、共産党一党支配を将来も継続したいという野望がうかがえる。私たちから見れば前時代的な発想だが、中国の指導者にとっては、覇権国家とはイコール広大な領土を支配することであり、他国の領土を侵奪することによって、自国の優位性を世界にアピールできるという虚栄心も根底に存在するのだろう。
対中最前線で生活する沖縄の離島住民は、ひたすら平和な生活を続けたいと願っている。しかし中国の指導者たちは、悲惨な沖縄戦の経験を二度に繰り返すまいと誓う住民の切実な思いなど、想像したことすらないはずだ。逆に言えば、県政が展開している「地域外交」のような、情緒的な訴えは中国には通用しないということである。
中国の攻勢に対し、日本政府は一貫して冷静な対応を続けている。尖閣周辺のEEZ(排他的経済水域)で複数発見されたブイも撤去していない。国が動くことで外交問題に発展することを懸念しているためだ。
一方、石垣市は尖閣諸島の字名変更、政府への標柱設置要請、情報発信センター設置、「尖閣アカマチ」のふるさと納税返礼品としての提供などに次々と取り組んでいる。新年度からは市役所内に尖閣諸島対策室(仮称)も設置する方針だ。
日本政府が二の足を踏んでいることに対し、地元自治体は自力でできることに挑戦しているのだ。中国政府は、これまで日本の自治体の動きに対しては表立って反応していない。中国政府には国としてのメンツがあり、自治体レベルの動きは、あえて無視する方針なのだろう。
石垣市が尖閣問題で積極的な姿勢を示していることは、中国との正面衝突を避けながら、日本の実効支配を強化する有効な手段と言える。今後の継続に期待する。