政府が有事を見据え、自衛隊、海上保安庁が円滑に利用できるようインフラ機能を強化する「特定重要拠点(特定利用)空港・港湾」に、県内から那覇空港と石垣港が指定される見通しになった。指定によって有事の際、住民を保護する体制が強化される。また空港・港湾整備事業に弾みがつき、観光振興や住民の利便性向上など、地域の活性化にも資する。政府の指定方針を歓迎したい。
有事だけでなく災害時の対応を考えても、空港や港湾などのインフラ機能強化は欠かせない。
特定重要拠点の制度は、平素から自衛隊と海保が空港・港湾を円滑に利用できるよう、政府とインフラ管理者があらかじめ取り決めを交わすものだ。これによって、空港の滑走路延長や港湾の拡張など、新たな事業導入と既存事業の促進が図られる。
だが市民団体などからは「空港・港湾の軍事拠点化につながる」「指定されれば、有事に攻撃対象になる」との批判が出ている。県内では、こうした意見がむしろ主流になっているのかも知れない。
政府は特定重要拠点空港・港湾について「あくまで民生利用を主とする」と強調している。指定後も民間の航空機や船舶の使用が大半である。指定によって空港・港湾が一気に戦闘機や艦船で埋め尽くされるわけではない。
指定に反対する人たちが使う「軍民共用化」「軍事利用」という言葉は、あたかも既存の空港や港湾が、新たな軍事施設として再整備されるような誤解を生む。
波照間空港が特定重要拠点の候補に挙がった際、波照間島で有志が実施したアンケートも「国が空港を軍民共用で使用する調整を行っている」とした上で、住民に可否を問う内容だった。反対が多数に上ったため、住民の「民意」が示されたとの意見もあるが、このアンケートは設問自体が妥当ではない。
政府は有事の際、先島諸島の住民を九州に避難させる計画を立てている。空港・港湾の整備が進んでいれば一度に多くの住民を運ぶことができ、命を救う体制を強化できる。むしろ離島の小さな空港であればあるほど、機能強化は喫緊の課題である。
攻撃対象となるという懸念も、的を得ていない。交戦状態になった場合、日本のどこを攻撃するか決めるのは相手国だからだ。特定重要拠点であるか否かといった国内事情が、相手国の判断に影響を与える保証はどこにもない。
攻撃を避けるため、あえて防御を貧弱なままにしておくというのは、本末転倒の議論である。むしろ日本の抑止力を低下させ、相手国の攻撃を呼び込む恐れすらあるだろう。
特定重要拠点の指定にはインフラ管理者の同意が必要だが、県管理の新石垣空港などに関し、玉城デニー知事は指定に慎重な姿勢を示している。石垣市は県に指定を受け入れるよう要請しているが、県は応じていない。
一方、石垣港は市、那覇空港は国が管理しているため、先行して指定の見通しが立ったと思われる。県内でほかに特定重要拠点の候補に挙がっている平良港は宮古島市が管理しているが、今回、指定は見送りの方向のようだ。
市管理のインフラ施設では石垣港のみ指定される見通しとなったのは、整備を防衛相に直訴するなど、指定に積極的な中山義隆市長の姿勢が影響しているのではないか。
県内では当初、12カ所の施設が候補に挙がったにもかかわらず、最初の指定が2カ所だけでは、指定に向けた作業が必ずしも順調に進んでいるとは言えない。
先述のように、特定重要拠点に関し県民の間で誤ったイメージが蔓延(まんえん)していることも尾を引いているのだろう。石垣市以外の自治体が、反対運動に足を引っ張られているなら残念である。
県民の不安を払しょくするため、政府は当然、説明責任を果たさなくてはならない。指定を受け入れた石垣市も、市が可能な範囲において、住民の誤解を解く努力を続けるべきだ。