【視点】全島避難 住民の理解不可欠

 有事に備え、万全の体制を構築している姿を示すことは、有事を防ぐ有効な手段にもなる。国、沖縄県、県内市町村の国民保護共同図上訓練が1月30日、県庁で実施された。
 他国からの武力行使を想定し、先島諸島の住民や観光客約12万人を九州・山口に避難させるための訓練だ。「戦争を想起させる」「まるで沖縄戦の疎開だ」と感情的に反発する声もあるが、まさに戦争を防ぎ、過去の惨事を繰り返さないための取り組みであることを理解すべきだ。
 沖縄県の国民保護共同図上訓練は3年連続の実施となる。国、県は「特定の事態を想定していない」とするが、台湾に近い先島諸島の全住民が島外避難するとされている。近い将来に起こり得る事態は中国が台湾に侵攻する「台湾有事」である。
 図上訓練の想定によると、八重山から空路で避難する場合、石垣市、竹富町の住民は新石垣空港から、与那国町の住民は与那国空港から、それぞれ福岡空港に向かう。
 海路は3市町の住民ともいったん石垣港に向かい、石垣港から宮古島の平良港や那覇港を経由して鹿児島港に向かうルートが検討されている。
 1日約2万人の島外輸送力を確保し、単純計算では6日程度で全島避難が完了する。
 関係市町村は避難実施要領案を策定している。石垣市は航空機で避難する住民の登録や手荷物検査を円滑に進めるため住民避難登録センターを設置し、船舶避難の登録などは石垣港のクルーズ船ターミナルを候補地としている。
 住民の一時集合場所から住民避難登録センターまでの移動手段確保など、具体的な手順も徐々に詰めている。国民保護に当たっては、いわゆる「泥縄」にならないよう、平時から避難計画を作り込んでいくことが大事だ。
 避難を迅速に完了させるには、輸送力の強化拡大が欠かせない。八重山の3市町は新石垣空港、波照間空港、与那国空港の滑走路延長などを要望しているが、県は費用対効果を理由に消極的で、国が進める特定利用空港の指定にも慎重姿勢を崩さない。
 3空港の機能強化は単に費用対効果の視点だけ強調するのではなく、津波を想定した防波堤のように、万一に備えた投資として進めるべきだ。県が国民保護の訓練を実施する一方、3空港の特定利用空港指定に対し同意を拒み続けているのは矛盾している。
 計画通り避難できなかった住民、避難誘導に当たる公務員など、しばらく島内に残留する人が待機するシェルターの建設も着実に進める必要がある。
 避難を拒否する住民への対応も議論になっている。全島避難の完了後は電気や水道などが止まるため、避難を拒否しても島内で生活を続けるのは困難だ。
 いずれにせよ第二次大戦中のような「強制避難」を行うことは、もはや不可能である。行政がどんなに綿密な計画を立てても、実行する上では住民の理解と協力が欠かせない。市町村があらかじめ、避難計画の内容や必要性を住民に周知しておくことが重要だ。

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