「日米安保体制と沖縄―沖縄の歴史から考えるアジア太平洋地域の平和構築―」をテーマにした沖縄県主催のシンポジウムが5日夜、那覇市の琉球新報ホールで開かれた。玉城デニー知事をはじめ5人が登壇。米軍基地問題について語ったが、日米安保の意義や基地負担の具体的な軽減策についての議論は深まらず、基地批判に終始する内容となった。
司会は新外交イニシアティブ(ND)代表で弁護士の猿田佐世氏。パネリストは玉城知事、アメリカン大学教授のピーター・カズニック氏、沖縄国際大教授の野添文彬氏、ジャーナリストの乗松聡子氏、平和教育ファシリテーターの狩俣日姫氏が務めた。
玉城知事は県が「基地のない平和で豊かな沖縄」を将来像として取り組んでいることを説明。自ら推進する「地域外交」で訪中して中国首脳に平和を訴えたことなどを挙げ「積極的に沖縄から世界に向けて外交をしていきたい。力を貸してほしい」と呼び掛けた。
猿田氏も「知事は基地問題に取り組み、米中、日中間に緊張があってはならないと外交に軸足を据え、ワシントン事務所を使って積極的に発信している。地方自治体のモデル」と評価した。
野添氏は「基地問題は明らかに不条理。沖縄の不条理を通して世界の不条理に目を向けるきっかけにしてほしい」と求めた。「沖縄から信頼醸成という形で大国間の衝突を防ぐ動きをしなければならないのではないか」と要望。基地負担軽減策として、本土が米軍基地を進んで引き受けることも提案した。
乗松氏は平和教育について語り「琉球・沖縄は大日本帝国に強制併合され、侵略支配された。日本による被害を受けた国や地域の一つだ」と強調。被爆地の広島、長崎と沖縄が戦争被害という点で同列に語られることについて「広島、長崎は国内の軍事拠点、侵略戦争の拠点で『やる側』、沖縄は『やられる側』だった」と疑問視した。狩俣氏は若者に対する平和教育の重要性を訴えた。
会場から米トランプ政権の誕生と今後の見通しを問う声を受けたカズニック氏は「トランプ氏は予測不可能で、病的なナルシスト。軍事的な戦争は嫌いだが、経済的な戦争はしたいと思っているだろう」「国内政策もひどく、残虐な苦しみを移民に与えようとしている」と批判した。
締めくくりに玉城知事は「シンポジウムは始まりだ。ここで共有したことをどう形にするかが大事だ」と述べた。
だがシンポジウムでは、米軍基地負担軽減を進めながら、沖縄の平和を守るための多様な意見が反映されたとは言い難い。一部の登壇者からも台湾有事を懸念する声があったが、「反基地」一辺倒のメッセージを発信するだけでは、平和の維持も現実の負担軽減も進まない。(仲新城誠)