【視点】南北融和「平和到来」は早計
- 2018/4/28
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「南北融和」をアピールする華やかなパフォーマンスに幻惑され、平和到来を確信するのは早計だ。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は韓国の文在寅大統領は27日、軍事境界線のある板門店(パンムンジョム)で会談。朝鮮半島の非核化を打ち出した。しかし大事なのは言葉ではなく行動だ。日本は今後とも国際社会と連携し、北朝鮮が約束を守るかどうか、厳しく追及する必要がある。
南北首脳は手をつなぎながら軍事境界線を越えたり、仲睦まじく記念植樹したり、2人だけでベンチに座って話し込んだりした。いかにもカメラを意識した友好の演出であり、形だけのアピール効果は抜群だ。韓国だけでなく、米国、中国も北朝鮮への融和ムードに覆われつつあるように見える。
しかし真の平和は、それほど簡単に到来するものだろうか。人道主義者を装う北の独裁者の擬態か、はたまた気まぐれの可能性はないのか。国際社会は十分に用心する必要がある。会談の成果はこれから明らかになるだろうが、北朝鮮の過去の非道を忘れたかのように、手放しの歓迎で金委員長を迎える文大統領の言動は、いささか軟弱にも映る。
北朝鮮は沖縄にも脅威を与えてきた。過去、人工衛星と称する弾道ミサイルを2度にわたって先島上空に発射し、被害を恐れる住民の抗議を一顧だにしなかった。そうした軍事優先の体質が一夜にして変わるとも思えない。北朝鮮の脅威が去ったことを前提に、沖縄の基地縮小を議論するのも早過ぎる。
今年に入り、北朝鮮が唐突に非核化の意思を表明したのは、トランプ米大統領と安倍晋三首相が主導した「最大限の圧力」路線により、金委員長が瀬戸際まで追い詰められたためだ。北朝鮮への態度が曖昧だったオバマ前大統領とは異なり、トランプ氏は北朝鮮が核を放棄しない限り、軍事的攻撃も辞さない方針を明言。日本は米国と足並みを揃え、国際社会に経済制裁の強化を訴えた。
金委員長としては政権維持のため、なりふり構わず米国との妥協に舵を切らざるを得なかった。
核実験やICBM(大陸間弾道弾)の放棄を打ち出した北朝鮮に対し、米国や韓国は歓迎の意を示しているが、日本政府は慎重な姿勢を崩していない。北朝鮮は短・中距離ミサイルの放棄までは踏み込んでおらず、依然、日本への脅威は消えていないからだ。最大の課題である拉致問題も、少なくとも報道されている限りでは全く進展が見られない。
文大統領と握手する金委員長の視線は、韓国や日本の肩先を越えて米国に向かっている。北朝鮮の「平和ポーズ」は、自国を壊滅させる軍事力を持つ米国だけを意識しているに過ぎない。南北融和が日本の懸念解消につながるか、判断するのはこれからだ。
日本としては南北首脳会談に関係なく、圧力路線のアクセルを踏み続け、北朝鮮から徹底的な譲歩を引き出さなくてはならない。
河野外相は「北朝鮮が完全かつ不可逆的、検証可能な核・ミサイルの放棄、拉致問題、拘束者の問題の包括的な解決に向けた行動を取るかどうか見極めていきたい」と述べた。手綱を緩める時ではない。