【視点】岐路に立つ自治基本条例

 自治基本条例は、それ自体では実効性に乏しく、市政による積極的な運用の意思がなければ画餅に等しいことがうかがえる。
 条例制定時、議会では当時の野党が強く反対し、議会では賛成11、反対8の可決だった。中山義隆市長も市議時代には同条例に反対していた。
 現在の与党は「石垣市のように、与野党の対立が激しい自治体では、自治基本条例の制定はなじまない」と批判する。「自治体の憲法」とされるからには、与野党を問わず、広く条例の基本理念が共有される土壌が求められるからだ。
 市議会は自治基本条例を検証する特別委員会を設置した。特別委の設置に反対する野党は委員に加わっておらず、与党ペースで審議が進む。現在までに与党からは、条例が規定する「市民」の概念が曖昧であること、前文を除く条文が、他自治体で制定された自治基本条例の条文に酷似し、全国統一の「ひな形」の存在がうかがえること―などに疑問の声が上がっている。
 特別委では今後、条例の改廃を含む議論が本格化しそうだが、条文のうち、少なくとも住民投票の規定には無理があると見るべきだろう。有権者の4分の1以上の署名が集まれば、請求者は議会の議決を介在させず、一方的に住民投票を強行できると解釈される余地があるからだ。これを「常設条例」という。
 石垣市は自治基本条例が常設条例であることを否定しているが、条文の解釈を巡って、近く市民グループとの間で法廷闘争に突入する。
 普天間飛行場の辺野古移設問題を争点にした県民投票もそうだが、陸自配備問題のように日本の安全保障に関わる問題は、一地域での多数決にはなじまない。
 この種の問題は住民を二分する可能性が高く、住民投票を実施すること自体に異論が出ることが多い。だからこそ議会というクッションを経て、慎重に最終判断することが必要だ。
 有権者の4分の1とは25%だ。選挙で選ばれた市長や議会の反対を突破可能にする民意のハードルとして「高い」とは必ずしも言えまい。自治基本条例が住民投票の「常設条例」として運用されれば、市政は、住民投票が乱発されるリスクを常に抱えることになる。

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