【視点】コロナ禍の中 八重高が県制覇の偉業

 高校野球の2020年夏季大会は2日の決勝で、八重山高校がKBC学園未来沖縄を4―2で破り、初優勝を果たした。同校は決勝で沖縄水産に敗れた1988年以来、32年越しの宿願を達成。八重山勢としては2006年夏の八重山商工以来、14年ぶりの頂点に立った。
 新型コロナウイルスの影響で、今年は春も夏も甲子園はない。優勝を果たし、歓喜に包まれた選手たちの目には涙もあった。本来なら次のステージとなる甲子園が、幻に終わってしまった悔しさもあったはずだ。ここまで頑張った選手たちを、甲子園に行かせてあげたかった。応援する住民も喜びと無念さが交錯しており、思いは複雑だ。
 大会終盤には県独自の緊急事態宣言も発令された。準決勝、決勝が急きょ無観客試合となったため、沖縄本島に駆け付けた父母も会場では応援できず、ホテルでの観戦を余儀なくされた。わが子たちの勝利を会場で見届けたかっただろう。
 この優勝の意義がとりわけ大きいのは、選手たちが離島のハンディを見事に克服したからだ。
 練習環境に恵まれず、練習試合の相手も限られ、島外への遠征のたびに多大な経済的負担を強いられるのが離島の宿命だ。沖縄高校野球の長い歴史の中で、離島勢の優勝がほとんどないのは、県大会となれば本島の高校が圧倒的に有利であることを示している。
 14年前の八重山商工の優勝は「八重山から甲子園へ」という官民挙げた取り組みの成果だった。今年は八重高の選手と父母、指導者がほぼ独力でやり遂げた優勝だ。おのずと意味合いは異なると言わなくてはならない。
 それだけに八重山高校の快進撃は八重山の人たちだけでなく、同じ離島勢である宮古などにも大きな勇気を与えた。困難を乗り越えて、輝かしい勝利に至る感動のドラマを見せてくれた。
 初戦は八重山商工との八重山勢対決を8―0で制し、沖縄工に10―2、知念に5―2と勝ち上がった。準々決勝では、春の県大会で敗れた小禄に4―2で雪辱を果たした。
 準決勝では日本ウェルネスと大激戦。9回2死からの同点劇もあり、最大5点差を逆転勝ちした。決勝のKBC学園戦では序盤からのリードを守り切った。
 厚い投手陣に強力打線、劣勢に追い込まれてもあきらめない精神力の強さが目立った。高校野球の神髄を楽しませてくれた好チームだった。
 通常なら夏の県大会優勝チームは甲子園に出場するが、今年は3年生にとっては県大会が最後の舞台となってしまった。県大会にしても、通常の大会の「代替大会」という位置付けだ。モチベーションの維持も困難だったかも知れない。
 八重山勢は昨年も八重山農林が県大会で準優勝を果たし、九州大会に初出場。一時は春の甲子園出場への期待も高まった。八重山勢が近年で最も活躍した年が、皮肉にもコロナ禍の直撃と重なった。球児たちは一世一代の大舞台を失った。
 だが、それは全国の同じ世代が一様に抱いている無念さでもある。
 八重高の球児たちは、初の県制覇という偉業で高校野球を完結させた。有終の美を飾ったである。
 まずは選手たちをたたえ、その活躍を今後とも語り継いでいきたい。たいまつを引き継いだ次の世代が、コロナ禍を乗り越え、今度こそ甲子園で躍動する姿を見せてくれるはずだ。

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